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We Three/Roy Haynes(ウィ・スリー/ロイ・ヘインズ) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 私が勝手に「小技の王様」と位置づけているモダン・ドラマーは西のシェリー・マン、東のロイ・ヘインズなのだが、幾多の名セッションに名を連ね、ヒット作もモノにしたシェリー・マンには決して引けをとらないキャリアの割に傑出したリーダー作がない点でロイ・ヘインズはちょっと損な面があるように見ている。

 普通に考えても、レスター・ヤングからエリック・ドルフィーまでと共演して調和できるというスタイルの柔軟さは目覚ましいセールスポイントであってもいいはずだが、マックス・ローチにとってのクリフォード・ブラウンだとかエルビン・ジョーンズにとってのコルトレーンみたいな極限的緊張感をもって対峙するホーンプレイヤーの巨人との恒久的な関係性が遂に得られなかった点が最終的に「最良のサイドメン」以上の立ち位置にはたどり着けなかった要因のうちの一つではないかと思う。

 実際、「無冠の帝王」という呼び名がこれほどふさわしいモダン・ドラマーはいないのではなかろうかと私は見ているのだが、最大限の賛辞からは少々引いた感のあるこの言葉の真意が前述したような運や因縁に由来するものなのか、或いは小から中編成向きに特化したかのようなそのプレイスタイルの故なのかは改めて興味をそそるテーマではある。

 4小節交換時に見せる霊感とバッキングの際のきめ細かい小型爆弾の闊達さが身上のロイ・ヘインズはやはり小編成で光る典型的なドラマーだ。個人的にはホーンが3本以上になるといまいちバンドの背骨としては線が細い感が否めないが1ホーンカルテットやピアノトリオでの演奏ではまず殆どと言っていいほどハズレがない。

 サイドメンとしては無数の名演が記録されていて枚挙にいとまがないほどだが、リーダー作となるとどこか小粒な印象があるのはそのプレイスタイル上致し方のないところだとは思うが、私は初リーダー作であるところのWe Threeを長年結構愛聴している。

ウィ・スリー

ウィ・スリー

  • アーティスト: ロイ・ヘインズ,フィニアス・ニューボーン,ポール・チェンバース
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2007/09/19
  • メディア: CD

 

 ロイ・ヘインズの名人芸は随所で堪能できるが何と言ってもここで注目すべきはフィニアス・ニューボーンの参加だろう。「10本の指と88のキーをフルに使い切る」と讃えられたニューボーンの超絶技巧を駆使した演奏スタイルと多弁なロイ・ヘインズのドラミングがうまく噛み合うかというのが本作の興味をそそるポイントなのだろうと予想できるが、サイドメンとしてのレコーディングキャリアはさほどないフィニアス・ニューボーンが意外にも一歩引くことでうまくお互いの見せ場を振り分けている。
 ついでに言えばポール・チェンバースは普段のセッションよりもリズムワークに寄ったプレイであり、個人的には少々苦手なあの独特のアルコ弾きのソロがない点は聴きやすい。

 少々残念なのは4曲目のAfter Hoursで、アルバム中の目玉となるべき長尺曲はスロー・ブルーズでメリハリや軽快さが売り物であるロイ・ヘインズの良さが出ていない。専らピアニストの引き出しの多さを駆使した奮闘ぶりに依存したややダレ気味の展開だ。他のレコーディングでもこの手の曲調ではしばしば単調なタイムキーパーで終わりがちな弱点があると私は見ているが、図らずも露呈してしまった感はある。
 無い物ねだりではあるけれど、ここでのドラマーが例えばエルビン・ジョーンズだったらと聴く度に思ってしまうのが本作のウィークポイントだ。
 但し他の楽曲は全て見事にテンションの効いた三者緊密な連携で楽しませてくれる。ミディアム以上のテンポでのロイ・ヘインズは全くもって惚れ惚れするほどの業師である。正確無比のビート、多彩なショットの打ち分けと無尽蔵とさえ思えるほどのコンビネーション、電光石火のカット・インなどなど、ドラマーをリーダーとするピアノ・トリオとしてはお手本みたいな本作は職人ドラマーの名人芸ショウケースといった趣で、所謂「通」になった気分を快く刺激してくれると思う。


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