SSブログ

Miles Ahead/Miles Davis(マイルス・アヘッド/マイルス・デヴィス)その2 [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 1956年、マイルスは悪名高いボブ・ワインストックの主催するPrestigeからメジャーレーベルであるコロムビアへと契約先を替えた。

 巷間、何が何でも吝嗇家のワインストックと手を切りたいが為にマイナーレーベルではおよそ企画できないような無理難題を吹っ掛けた、と伝えられるギル・エバンスとのコラボレーションだが、転身後の作品群を聴いてみればそこにはやはりこういった音世界を希求していた必然性は多くのリスナーに十分納得していただけるものだと思っている。
 音楽の背景に有象無象の打算や愛憎関係といった人間関係の機微を憶測することは勿論それぞれのリスナーの自由ではあるが、殊更そういった側面ばかりを誇張して音楽そのものとは直接関係のない物語の形成に夢中になりすぎるのはこんな駄文を連ねている私自身を含めて今一度立ち止まってみる必要はあると思う。

 マイルスとギル・エバンスの交友関係というのは、例えばマックス・ローチをはじめとする一連の黒人プレイヤー達とは少々色合いが異なるように私は常々受け止めている。
 彼ら多くの同年代プレイヤー達との関係が、一緒に羽目を外して放埒を繰り返したこともあるいわばポン友同士の友情風であるのに対して、ギル・エバンスとは何か楽理楽典上の理念が一致した思想的同士といったアカデミズムを匂わせている。

 ギル・エバンスは前回のエントリーで取り上げたBirth of the Coolにもアレンジャーとして数曲関与しているが、マイルスとの共同プロジェクトに於けるコ・リーダーとしてレコードジャケットに記名されるのは本作が最初となる。
 

マイルス・アヘッド+5
マイルス・アヘッド

マイルス・アヘッド

  • アーティスト: マイルス・デイヴィス,ギル・エバンス
  • 出版社/メーカー: ソニーレコード
  • 発売日: 2000/06/07
  • メディア: CD


 コンボ編成でソロをリレーしてアドリブを競い合う従来の演奏スタイルではない別の可能性をパーカーのバンドを退団後のマイルスは折に触れて模索していたわけだが、カラフルな大編成オーケストラと共演する演奏フォーマットは本作に於いて初めて結実した。

 本作にはマイルス以外のソロイストは居らず、トランペット・コンチェルトとでも形容したくなる演奏形態をとっている。但し大向こうを唸らせるようなロングソロがあるわけではない。
 前回のエントリーと重複するが、マイルスという人は本来的にトランペットの嫡流にあるような咆哮するビッグバンドを従えて威風堂々、王者の如く振る舞うという吹奏スタイルではない。内省的な吹奏スタイルの持ち主を主役に押し立てて対立的と言うよりは調和的なオーケストレーションを施したビッグ・バンド演奏というのがこれら一連の共同作業の基本骨格であり特筆すべきユニークさでもあるわけで、ソロイストの資質を知悉したアレンジャーの手腕は彼ら二人の理念上の結合を強く意識させる。

 演奏時間はどの曲も短めで後に区切りとなるSketch of Spainのような大作風味ではないが、視点を変えれば聴きやすさ、取っつきの良さでもあるわけで、高級なイージー・リスニングとして接するのは一興。何となく聞き流せるが傾聴すればそこには精妙なアレンジメントが聴き取れる。リアル・ジャズとしてエモーションの揺らぎを本作に求めるのは野暮だ。それよりはむしろある曲の末尾のコードが次の曲の冒頭のコードでもある、といった遊び心のある小技や、曲によってトランペットをフリューゲルホーンに持ち替えるマイルスの出音の変化をリラックスして楽しむべきだろう。

 マイルスの音世界は総体に内省的で緊張感に満ちたものだと私は捉えているが、経歴中にあって時折、肩の力を抜いて開放感に浸るような録音を残しており、それらで聴かれる小味の効いたキュートな吹奏が私は結構好きだ。本作でもレギュラーコンボで担っていた謹厳なバンドリーダーとしての役目はアレンジャーが受け持っているせいか、軽やかというか伸びやかというか、珍しく陽性のプレイで一貫している。

 結果として本作はマイルス個人にとっては初リーダー作であるBirth of the Coolの実験臭を払拭して完成度の高いオーケストレーションを獲得した初の「作品」となった。同時に本作はダンス・バンドを基本として発展を続けてきたビッグ・バンドの姿という来歴を恐らく初めて断ち切った、所謂芸能臭、芸人臭を一切排除したジャズ史上初のオーケストラ作品でもある。
 それは一気呵成のアドリブ一本勝負であるパーカー的音楽世界とは別の地平の獲得であり、最後に何よりも、恐らくビッグ・バンドに在籍したとしていたならばセクションワーカーに終始していたであろう資質のトランペッターと私が推測するマイルスがソロイストとしてカラフルな大編成オーケストラと共演する手法を体得して実現した、多くの意味での解放を記録した印象深い音楽である。

(この項終わり)


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

Miles Ahead/Miles Da..Gillespiana/Dizzy GI.. ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。