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トーンアームのこと(SME SeriesV) [再生音楽の聴取環境など]

 トーンアームのことやらターンテーブルのことやらでああでもないこうでもないと考え事をしているうちに長らく眠っていたブツのことを思い出した。我が家に眠るダイナミックバランスのトーンアームのことだ。

KICX0204_1.jpg

もう大分長いこと、行き場がないまま眠り続けている。 オラクルのタンテにはよく似合いそうなのだがそういうことにはなっておらず、結局はサウザーのLTAがターンテーブルを常にまたぎ続けている。

 大分以前、ステレオサウンドという雑誌にオラクル・デルフィの特別バージョンであるオールブラック仕上げに本機SME SeriesVがマウントされた写真が掲載されていてそれはそれはぞくぞくするほど格好良かったのだ。事実、ある時期までSMEとトランスオーディオ(創業時のオラクルの社名)は相互のトーンアームとターンテーブルを自社試聴時の標準セットとしていたと聞いている。

 しかしながらブラック仕上げのオラクル・デルフィは途轍もなく高価だった。何しろ私の常用であるデルフィ2の倍以上の値段だった。勿論Seriesも高嶺の花である。

 高嶺の花ではあるがある事情でこのアームは私の手元にある。いきさつは長くなるのでひとまずここでは省略させていただく。何か気の利いたターンテーブルを手に入れて取り付けてみたいと思いながら出来ないままもう何年も経ってしまった。最大の理由は私が貧乏人で気の利いたターンテーブルを簡単には購えない懐具合だからだ。 しかしその気になって60回払いくらいのローンを組めば何か買えなくもないがあいにくそうはなっていない。このアームは試験的に我が家でオラクルに取り付けられた数日を除いて全くの休眠状態が何年も続いているのである。

 忌憚のない意見をここで述べさせてもらうと、トーンアームの王道的存在のSMEと私は余り相性がよろしくないようなのだ。色々セッティングを変えてみたが結果がはかばかしくなかった。SeriesVはデビューと同時に大絶賛を持って迎えられた。世界初のマグネシウムボディ、シェル一体型のストレートアームという今日的潮流の開祖とも言うべき歴史的製品、のはずなのだが・・・スタイリングといい質感といい惚れ惚れするほど美しいSeriesVだが、いざ使ってみるとスラスト方向の感度が高すぎてローマス、軽針圧以外のカートリッジボディでは使い物にならない。ミドルマス以上だとカンチレバーが十分にスイングせずにアームごと振られてしまうので非常に貧相な出音になってしまう。フルイドダンパーを調整したりオイルの種類を変えたり色々やってみたがどれもイマイチだった。何より落胆させられるのはこれほどソリッドな造作でありながら、というよりもソリッドでありすぎる構造のためか私の大嫌いなダイナミックバランス特有のバネの共振がアームパイプに露骨に乗っかってくる。

 数年前に都内の某所で聴く機会のあったGraham Engineeringのトーンアームにはものの見事にノックアウトされた。現行品のPhantom(かっこいいネーミングですよね)の一つ前の機種だった。取り付けられていたターンテーブルは確かイメディアだったと思う。SeriesVと値段は大体一緒だがもしもどちらか一つを選べと言われたら断然グラハムを取る。音質の差は桁違い、歴然以上の開きだ。

graham_phantom_hyousi.jpg

現行モデルのファントム、かっこいいですねえ。

ある掲示板でグラハムのオーナーと仲良くなり、助平根性やら下心やらで SMEと少しの間取り替えっこしてみませんかと持ちかけたら「ご冗談でしょw」とあしらわれた。そのお方は購入前に両方聞き比べてみて毛ほどの迷いもなくグラハムに決めたのだそうだ。SeriesVとの相性が良くなかったのは私一人ではなかったようだ。

 その後わかったことだが現行品のファントムは、例えば私が常用しているオラクルのようなフローティングベースのターンテーブルには取り付けられないとのことだ。理由は本体部分の重量が大変重いのでどう調整してもサブシャーシのレベルが出ないからというコメントをいつか輸入元のスキャンテックからもらった。ソリッドベースのターンテーブル専用のアームである。「 現行のスパイラルグルーブはいかがですか?オラクルもいいですけど原設計は25年前ですからねえ、アナログも進化していますよ。目下世界一のアームのファントムに最適化されたターンテーブルで云々・・・」全く痛いところを突いてくる。そりゃ確かに物欲はかき立てられるがコンビニ強盗を30回位たて続けに成功させてやっと買えるか買えないかのプライスタグには意気消沈させられる。

 SeriesVに話を戻すと、上首尾が得られないのは私の腕の問題かと思って3009S3使いである私の兄が面倒臭がるのを無理矢理押しつけて使用感を聞いたところやっぱり余り色よい返事ではなかった。大体私がやってみたのと同じようなことを兄も試みて同じような結論に至ったらしい。他にも数人、SMEオーナー、3009S2を使っておられる方に試してみていただいた。誰もがSMEのフラッグシップを見て色めき立つが数日経つと浮かない顔で取り外したSeriesVを持参してやってくる。

 思うに、SMEのアームは結局、3009S2か3009S3が一番良い選択肢なのではないだろうか。洒落たスタイリング、ほどほどのお値段でセッティングを詰める楽しみもあるしハイパフォーマンスも得られる。極限的なハイスペックを狙わなければこんなに賢いお買い物はないように思う。現在のターンテーブルにする前、短期間だがLiNN LP12とSME 3010Rを使っていたときのことを思い出すと、正直言ってもっと安いサエクのWE-407アームのほうが私にとってはピンと来る音だったので悔しかった。SMEのネームバリューに釣られた自分がその時は愚かに思えた。

 翻って現在、こうしてまたもや手元にSME SeriesVを置いて弄んでいると、夏専用とか粗悪な盤質専用とかいった用途にしか活かしようがない私の腕のなさに暗い気分になる。同時にまた、印刷物でしばしば絶賛されるこのトーンアームの評価の根拠が未だに私にはわからないでいる。「おまえのような未熟者には所詮猫に小判なのさ、これがSeriesVの真価だ、さあ聴け、どうだっ!」という方がどこかにおられないだろうか。もしもそういう方がおられたら是非ともご指導ご鞭撻を願いたい。どうも私はSMEとは幸福な関係が持てないようだ。


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しょう

突然おじゃまします、某掲示板で昔アドバイスを頂きました
しょうと申します。
検索で偶然ここに辿りつきました。

さて、shim47さんのアドバイスであれから早速3009S/IIIを購入、LP12に乗せて現在も愛用しています。

最近SME309を購入、
http://www.hifido.com/KW/G0301/P0/A10/J/20-10/S0/C08-36711-16186-00/
こちらのプレイヤーで聞いていますが、音は今までとは別格の素晴らしさ、
大変驚いています。
カートリッジはライラのアルゴです。

カートリッジをいろいろと試してみましたが、アルゴほどの音を出すものはなく、特別相性が良かったのかもしれません。

私は全部で5台のプレイヤーを使っていまして、309以外のアーム、プレイヤーでアルゴを使った印象では、さほどの事もなかったのです。

3009S/IIIもいろいろとカートリッジの変遷を重ね、現在はコントラプンクトaに
落ち着き、柔らかで軽く、中域の密度が濃い音を出しています。

最新のステレオサウンドのアナログ特集では、309をアレンジしたアームを
乗せたデルフィが最高の評価で「完璧な再生」とまで書かれていました。

このときのカートはオルトのジュビリーですが、ライラ、ジュビリーあたりの
相性が良いのかもしれません・・・・
by しょう (2008-06-28 14:30) 

shim47

しょう様
コメント有り難うございます。また、返事が遅れまして申し訳ありません。
画像を拝見させていただきました。かっこいいですね。
経験的に、LPレコードプレイヤーは楽器のようなもので、美しいフォルムを持つものは大体、期待を裏切らないプレイバックをしてくれたように思います。

そういう意味ではSeries Vをものにできない私が未熟者なのでしょう。

デルフィについては、私の持ち物は古いので余りはっきりしたことも言えませんが、果たしてオーナーのうち一体どれほどの人が正しいサスペンションチューニングで聞いているのか大変疑問です。
デルフィ3以降はチューニングは楽になったと聞いたことがありますが、私のデルフィ2は盤の重量変化やカートリッジの自重変化にさえもピーキーに反応してサスペンションストロークの調整し直しを要求する気むずかし屋です。
「いい音、完璧な再生」という風評だけで安易に手を出すべきではない機材もありそうで・・・大阪のアサヒステレオセンターの社長がいつぞや曰く「あれは(オラクル・デルフィは)『末期の一滴』ですねえw」と。一枚のLP,一個のカートリッジのため’だけ”のターンテーブルというニュアンスでした。

長くなりすぎそうなのでこの辺で。掲示板も拝見させていただきます。
by shim47 (2008-07-08 23:18) 

しょう

デルフィ2がそれほど難しいとは知りませんでした。
最新のモデルは、そのあたりが変更されているのかもしれませんね。

QUASARのフレームはかなり重いムク真鍮製で、サス調整はそれほど
シビアではないようです。
バネ上重量は15kgほどでしょうか。

今回はQUASARと309、ライラの相性が偶然私の好みに合っただけかもしれません(汗

ただ、サススプリングの共振音が気になり、脱脂綿で鳴き止めをしたら、
見事に音も鳴き止まってしまい(笑)、平坦な音になったのにはビックリ。


それと、私もエンパイア598を持っています。
買ってきた時にアームの軸ネジがゆるんでいて、そのまま鳴らしたら
とんでもない大迫力で驚いた経験があります。
ネジを調整したら普通に戻りましたが、shim47さんの記事であれはダイナミックバランスのスプリングの音だと納得した次第です。
by しょう (2008-07-09 17:40) 

shim47

 しょう様 コメント有り難うございます。
 エンパイア598をお使いでしたか。私は一時、随分探しましたが見つからず、たまたまオークションに出品されていた698でひとまず落ち着いた口です。
 
 いずれエンパイアについては何かテキストをものにしたいと思っています。ホームオーディオについては歴史的な機器が目白押しの米国製品ですが、何故かLPレコードプレイヤーとなると製品群が寂しく見える中で殆ど唯一、私たちの記憶にとどまっているブランドがエンパイアではないでしょうか。

 1950年代の中流家庭を連想させるいかにもアメリカの金持ち風な佇まい、見たまんまの出音などなど私にとっては結構愛すべきプレーヤーシステムです。ここしばらくはモーターゴロが段々大きくなってきたのでそのうち手入れをしようと思案しています。
 
 しかしプレーヤーシステム5台とはまた凄いですね。単体のフォノイコライザーなどはお使いですか?システム構成に大変興味があります。掲示板には立ち寄らせていただきますので是非お相手を願います。
by shim47 (2008-07-11 02:19) 

しょう

トロバドール598は、ハードオフで24,000円という破格値だったので、思わず衝動買いしてしまいました。

メインプラッターに経年変化によるゆがみがあるのが唯一残念ですが、
特にワウを感じるほどではありません。

カートリッジはもちろん金ピカのエンパイア4000D/IIIで、これは他の
カートリッジを付ける気持ちが起こりません(笑)

フォノイコはラックスE-03を使用し、MM入力にはアントレーのET-100トランスを介して3台のプレイヤーを入力、MC入力に1台直接つなぎ、計4台が稼動しております。

針は30本ほどありまして、今だ悟りを開くには至らず、楽しく遊んでいます。

またあちらの掲示板でもお話ができればうれしいですね。


by しょう (2008-07-11 10:55) 

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