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The Eminent J.J.Johnson Vol.1/J.J.Johnson(ジ・エミネント・J.J.ジョンソン Vol.1/J.J.ジョンソン)その1 [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 J.J.ジョンソンという人は私にとって、疑問の余地なく偉大なミュージシャンであるにもかかわらず偉大であるが故に何となく取っつきの悪い代表格ということになるのだろうか。いつぞや私はオスカー・ピーターソンのことを「帝大卒で公益企業の部長みたいだ」と半ば皮肉混じりに書いたことがあるが、同じような喩えで言うとJ.J.ジョンソンという人は同じ帝大卒でも財務省かどこかの官僚みたいなイメージなのである。

 その演奏はどこからどう切ってもそつがなく、なんだかむやみやたらと上手である。 腹立たしいくらい巧い。そしてどちらもあらかじめ約束済みの役割分担からは絶対にはみ出さない。予想通りのスリルを確実に与えてくれるが「予想外のスリル」は殆どあり得ないプレイヤー、最高級の実務家という印象はどちらにも共通する。但し、オスカー・ピーターソンがあくまでも1プレイヤーとしてそのキャリアを全うしたのに対してJ.Jはというと整合感の固まりのようなオーケストラ作品を多数リリースしたり1960年代の中期以降は長くスタジオミュージシャンとして活動していたりで、多少気恥ずかしい言葉を使えば、楽器演奏に賭けるジャズマンの情熱みたいなものが何となく希薄に感じられるのは私だけだろうか。世界中のトロンボーン奏者が逆立ちしても敵わないほどの超絶技巧を誇る名手でありながらその属性は「色々ある持ち札のうちの一つ」というのは何とも勿体ない話だと思う。何しろジャズミュージシャンであるばかりでなく腕っこきのスタジオミュージシャンであり、1プレイヤーであるばかりでなく目端の利いたバンドリーダーであり、秀でたオーケストラアレンジャーでさえもあるのだ。人は良く、「天は二物を与えず」と言って資質の欠落を惜しむがあんまり与えすぎるのも考え物だと私はJ.J.ジョンソンの音楽を聴く度に毎度思う。折角隔絶した技量がありながら残念なことにJ.Jのレコーディングには胸が熱くなるようなジャズ精神の爆発が聞き取れるものは実に少ない。超秀才の官僚作文みたいに周到で、隙がなく、緻密に考え抜かれていてそれでいながらというかそういうものだからなのかというか、どこかクールなんである。

  我ながら冷め加減のテキストだなあ、と、途中まで書いていて思った。今まではあまり熱中する気になれなかったJ.Jの音楽なのだが、ここ数年余暇が取れるようになってきたので少しは意識的になってみようと思い立ったのでした。手元にはブルーノート盤が2セットあって片方は一枚がレキシントン盤のオリジナルである。こちらは盤質がひどかったので後年東芝からの再発盤を買い求めたのだがいずれにしてもJ.Jジョンソンだしろくすっぽ聴きもしないまま長年棚の中に埋もれ続けていた。それもなんだか勿体ない話だ、何か聞き落としているものはないかと意識的に針を降ろすようになった次第である。

ジ・エミネントJ.J.ジョンソンVol.1

ジ・エミネントJ.J.ジョンソンVol.1

  • アーティスト: J.J.ジョンソン,クリフォード・ブラウン,ジミー・ヒース,ウィントン・ケリー,ジョン・ルイス,パーシー・ヒース,チャールス・ミンガス,ケニー・クラーク,サブー
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2005/06/08
  • メディア: CD

 

ブルーノートレーベルへの初リーダーセッション、1953年6月22日分のことを少々書き留めておきたい。 吹き込みは別テイクを除いて正味6曲ほどだったが何と言っても目を引くのはクリフォード・ブラウンの参加だろう。ライオネルハンプトンのバンドに加わる約3ヶ月前である。

 本作からパリでのセッションあたりにかけてのクリフォード・ブラウンは「新進気鋭の」という言葉さえもが陳腐に思えるほどの輝きようだ。まったくもってこの人は、姿を現したその瞬間から既にただ者ではなかったことがここには如実に記録されている。私に言わせれば後年のウィントン・マルサリスなんてちゃんちゃらおかしいくらいだ。「火を吐くようなブロー」とはこういう吹奏のことを指すのだと痛感させられる。2コーラスかそこらのソロスペースが何とも惜しいのだが、ここでのリーダーJ.Jはあろう事かその上、たった一曲だけとは言えこの歴史的逸材を休ませて1ホーンカルテットでの演奏を決める。後年これを聴く私のような者からすれば何とも勿体ない話で、後にJ.JはLP一枚丸ごとワンホーンなどというレコーディングもするわけで、ここではちょっとくらい若い者に花を持たせてやればいいじゃないかなどと文句を言いたくなる。

 それはさておきこの日のレコーディングには特別ボーナスがある。これも一曲だけだがなんとクリフォード・ブラウンがミュートソロを取る。私が知る限りこの人が生涯残したレコーディングのうちミュートをつけてソロを取るのはこれ一曲だけではなかっただろうか。同じミュートでも当然ながらマイルスともガレスピーとも違う。図太いエネルギーが充満したかのようなトーンでバリバリ感に満ちている。私などは思わず『これじゃあミュートを付けている意味がないよ』と苦笑してしまった。 だがしかし、天才とはそういうものだ。この過剰さ、やりすぎ感、ミュートを付けていてさえのこのパワフルな感じ、出音一つでリスナーをノックアウトするプレイヤーとはまさにこういう人なのだと改めて納得してしまった。

 本当はJ.Jジョンソンのことを書くつもりでいたのだがサイドメンの話題に脱線してしまった。元々私はいい加減な性分で、毎度特にこれから書くことについて深く考える方ではないのだがこんな逸脱を呼び起こすのも天才のなせる技かと。

 


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