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「闇の子供たち」を見に行く [映画のこと(レビュー紛いの文章)]

 不定期だが日曜日の午後は思いつきでふらりと映画館に入るのが私の生活習慣だ。現在、私の住む町には映画館は2軒で、一方は典型的なシネコン、もう一件は昔ながらの単館上映で、利用頻度は大体半々程度だ。

 後者は大きな予算を投入して大量動員を狙ったプログラムは少なく、娯楽性よりも少々マニア好みのする演目が多く、かなり重いテーマの映画が掛かることもある。 タイに於ける子供の人身売買を扱った映画ということで足を運んでみた。

http://www.yami-kodomo.jp/  (公式HP)photo_2.jpg

 雑感のようなことを羅列しておくと、劇映画としてよりもドキュメンタリーとして制作したほうが問題提起や表現としてのインパクトは大きかっただろうと思う。ただ、劇映画として制作し、事実の禍々しさを良くも悪くも薄めることで映画館に人を呼び込む敷居の高さを下げる効果は確かにあったはずだ。描かれていることの事実性はさておいて、日常報道では目を背けられている出来事なので(臭いものには蓋と言うべきだろうか)より多くの人に見てもらうという目的は制作サイドにはあっただろうから、興行としては重いテーマであるにもかかわらず一定の成果は上げたのだろう。

 ストーリーとしては、終盤の銃撃戦など余り必然性の感じられないエピソードがあったり、登場人物の描き方に単細胞的な言動が目立ったりで、正直なところ出来がいいとは思えない。ネタバレになってしまうのだろうがラストでは主人公が勤務地での滞在時に行ってきた行動の罪悪感にさいなまれて自殺する場面があるが、ここに至るまでその後ろ暗さに無自覚だったとしか見えないのは普通、人間心理からいってあり得ない。売買された子供を助けるためにと大義名分をがなり立てて身内のスタッフに命の危険を伴うような行動を迫りながら自分は常に車の中で待っているだけなどというムシのいいNGOの主宰者にはむしろ怒りを覚えたが、ある意味リアリティを感じもする。

 そういうわけで劇映画としてはお世辞にもいいとは思えないが、スクリーンにアップで映る子供達の表情には痛々しさが鮮烈に表れていた。意図されていたものかどうかは疑問だが優れた演出を感じさせる殆ど唯一のカット群だ。劇中、日本人の買春客が投宿先で児童相手の性行為を済ませた後、全裸のままでパソコンに向かい、恐らく掲示板の書き込みか自分のブログか何かなのだろうが「ひよこまんじゅうを云々」と入力する場面がある。この先当分、私はこの言葉から陰惨な連想を働かすようになるだろう。

 エンドロールを見るまで知らなかったがこの映画には原作がある。

闇の子供たち

闇の子供たち

  • 作者: 梁 石日
  • 出版社/メーカー: 解放出版社
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 単行本

 ルポルタージュではなく、小説だ。だからといって描かれていることが荒唐無稽な絵空事だとは勿論思わない。興味深いのはネット上では原作、映画を含めて著者が在日韓国人で子供の買春や臓器売買を扱った内容なので反日的なプロパガンダの意図が感じられてけしからん、という意見があちこちで見られることだ。正規の手続きに則らない臓器売買や買春ツアーが金の絡んだ社会の仕組みとして存在していることよりも、日本人が批判されたり否定的に描かれていることのほうがより重大だと考える人達が一定数はいるわけで、ものの見方や考え方には色々あるものだと思う。

 かなり以前、プロレスラーのジャンボ鶴田は肝臓移植のためにフィリピンに赴き、そこで手術中に客死した。当時私は何故フィリピンだったのかが不可解だった。真偽のほどは定かではないが、その後、臓器提供はイリーガルな形で行われたという噂が立った。フィリピンという土地は概して治安が悪く、銃器密売や風俗営業関係の温床として組織犯罪の資金源となっている国だ。プロレスという業界もまた伝統的にその筋との関わりは深い。当然、プロレスの雑誌は今に至るまでこの件に関しては全く言及することなく目をそらし続けている。そんな構図に私は深く淀んだ深淵を見る。

 映画での舞台設定はタイである。ミャンマーでのサイクロン被害の際には行方不明になった子供が随分多かったらしい。中国でも同様の行為が横行しているという噂を聞くこともある。それで私は毎度暗い気分になるのだが、何故毎度アジア圏なのか。何故この手の所業の被害者はいつも有色人種ばっかりなのか。 今日は帰宅の道すがらそれを考えているうちに以前見たことのあるドキュメンタリー映画のことを思い出した。

 それは現在、DVDとしては販売されていないようだ。Hearts and Minds(ハーツ・アンド・マインズ)というベトナム戦争を扱ったもので、主にインタビューで構成されている映画だった。その中で、確か終わり近くにあるアメリカの将校が平然とこんなことを言い放つ。「東洋人というのは元々、命を軽く考える習慣がある」それがその将校個人の意見なのか、それとも白色人種中ある一定割合の公約数的な見方なのかはわからないが、そういう人達は確かにいることになる。タイ人とかフィリピン人とか、中国人とか韓国人とか日本人とかの括りではない。「東洋人」だ。闇は本当に暗く、根深い。   


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