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The Rose(ローズ)ついでに「だんだん」が面白くないことに関して [映画のこと(レビュー紛いの文章)]

 これまで何度も書いたとおり私はテレビ放送の熱心な聴取者ではない。テレビが故障して見られない時期が数ヶ月あったがそのときでさえないならないでいいと結構簡単に割り切れたほどだ。但しあればあったでそれなりに見ないこともない、良くも悪くも私にとってのテレビ受像器はそういう位置づけだ。

 放送局で言うとNHKが多いのはこの公共放送の内容が優れているからではなく、他に民放各局の内容が酷すぎるからだ。それに見ると言ってももっぱら朝のうち、時計代わりにちらちらと眺めている程度でしかない。生活習慣として8:15から放送されているドラマを目にすることが多いが、目下放送されているものは全く面白くないので、本当に時計以上の役割を果たしていない。「だんだん」というのがそのタイトルだ。

 身も蓋もない言い方をすればドラマなどというのは全て、基底に実話があったにしても大なり小なり作り話なのだからくそ真面目にあれこれ難癖を付けるのも野暮な話だが、どうにも決定的に受け入れられないことがある。

 歌手を目指す双子の姉妹とこれを売り出そうと躍起になる音楽プロデューサーという構図が目下の所、筋立ての中心なのだが音楽をドラマの中心に据えるというのはどうなのだろう、成功例が殆ど思い浮かばない。そして「だんだん」は私が覚えている中でもかなり程度が悪い。

 何がお粗末と言って主人公であるところの双子姉妹の歌唱だ。カラオケが私たちの生活にすっかり定着してから久しいが、周囲を見渡せばこの程度の唄を歌う人など掃いて捨てる位いる。こんな程度のシンガーに入れ上げてしまう音楽プロデューサーは本当に眼力に欠ける御仁としか言いようがない。所詮作り話でしかないのだからこんなことにいちいち茶々を入れるのもアホらしいのだが荒唐無稽にも程がある。ここ数日は登場人物達が「プロとは云々」と口にする場面が出てくるが私の見え方としてはこのドラマ自体がプロの造作ではない。大体、登場人物中プロの匂いを醸し出している人が殆ど皆無ではないか。私が思いつくのは祇園の女将さんと、双子の父親の後妻の二人だけだ。皮肉なことに後者はまさに「専業主婦のプロ」であって、このドラマには実はもっとも生産性から遠いはずの人が最も高いプロ意識の持ち主だったというシニカルな逆説を密かに忍ばせておきたい隠れた意図があるのではないかと天の邪鬼な私などは勘ぐりたくなる。

 何せ、主人公達のミュージシャンとしての資質が素人歌唱の域を全く出ていない点で物語としてのリアリティは殆どゼロに近い。こんな不自然な筋立てのドラマをこしらえてまで売り込みたいほどのタレントなのかとNHK大阪の眼力を疑う私は二重に懐疑的なことになる。

 音楽をドラマの主軸に据えるというのはなかなかに難しい仕込みを要するのではないかと私は常々考えるのだが、はっきり意識したのは学生の頃に見たRoseという映画だった。

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 ベット・ミドラーというシンガーに当時、いかに大きな期待がかかっていたかが示されている。事実大きな度量を持ったミュージシャンではあるが、幾ら何でも題材がジャニス・ジョプリンでは荷が重かろうというのが当時私の先入観だったがこれは間違っていなかったと今でも考えている。

 二昔以上前に一度映画館で見たきりなのでディティールを全部は思い出せないが、ベット・ミドラー扮する主人公は全然不幸そうにも悲劇的にも見えない。ルックスはいいし、物わかりの良さそうな彼氏は寄り添っていてくれるしで、こんな周辺環境なら精神世界の過剰さも欠落も起こり得ないではないかと当時青二才の私は懐疑的になった。歌いっぷりは確かに様になっていて本人に通じるところもあったような気がするが何かが違う。ジャニスの唄というのはどこか未成熟で円満さやバランスを欠いた人達の心情を代弁していたはずのもののように私は捉えていたので違和感の原因はそこにあるのだろう。

 映画を見ながら私はジャニス・ジョプリンのことを頭の中から追い出した。これは単純に、一種のミュージカルとしてベット・ミドラーのステージアクトを楽しむ娯楽作品として接するべきだ。 それで入場料の7割位は元が取れた気分になった。繰り返すがベット・ミドラーは優れたシンガーであり、エンターテイナーでもある。結局私がシンガーとしてこの人に入れ上げることはなかったが客観的にはそう思う。

 思い出してみるとミュージシャンの評伝を題材にした映画というのはどれも大してうまくいっていないのではないだろうか。殊に、残された音楽が既にドラマツルギーを帯びているような天才ともなると尚更だ。人間表現としては既にその人の音楽が全てを語り尽くしている以上、後から何を付け足しても邪魔くさいだけとも思う。

 翻ってテレビ小説に戻れば、再度、こんな程度の歌唱のどこがよくて売り出したいのかねえ、と、毎朝タバコを吹かしながら幾分侮蔑的な接し方をする私自身のことに思い至った。それは「訳知り顔のイヤミなオヤジ」だ。図らずも私はこの陳腐なドラマを毎朝見続けながら私自身のそういう側面を再認識したのだった。 


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いっぷく

テレビ各局が視聴率を追い求めた結果が現在のような見るに堪えないような放送内容になり下がっています。
昔、大宅壮一氏がテレビの普及の中で一億総白化装置と言ってましたが、
まさに現実化しています。
日本のテレビをつければどこの番組も大騒ぎしてどなりまくっていて、
CMも多すぎるし、CM内容も替え歌か、わけのわからない踊りやらで最悪の状況です。これじゃ見る気にならないですね。

by いっぷく (2008-12-25 11:05) 

shim47

 いっぷく様、コメントありがとうございます。
レスが遅くなり越年となってしまいましたが今年もよろしくお願いいたします。

 民放各社の低落傾向は目を覆いたくなるような惨状であって、スポンサーの獲得に四苦八苦しているのが現状と聞きました。あれだけ低劣な内容を連発していればさもありなんといったところでしょうか。
 私にいわせればあれらは既に報道ではなく、番組自体が広告なのです。だからタダで視聴できるのだとある時気付きました。
by shim47 (2009-01-03 02:59) 

いっぷく

番組自体が広告>
なるほど、タダというものだと気かつかなくては!感心しました。
by いっぷく (2009-01-03 11:06) 

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