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Cloverfield/クローバーフィールド [映画のこと(レビュー紛いの文章)]

 昨年話題になった映画だが私は映画館で見ておらず、今になってやっと DVDを借り出してきた。もうあちこちで随分語られ尽くしてブログで取り上げるには今更というのはごもっともだが、ここは私自身の備忘録的におさらいのような事を書いておきたい。

 幼少時の私は怪獣映画が大好きで、ゴジラやウルトラマンには随分熱中した。怪獣が登場すると車を踏みつぶしながら我が物顔で市街地をのし歩き、無造作にビルを叩き壊したりする訳だがああいう行いのうちに被害を被る人々は当然沢山いる訳で、この映画は「怪獣に踏みつぶされる人たちのうちの一人」という視点で作られている。

クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
  • メディア: DVD

 怪獣は瞬間的にチラッチラッと断片的に出てくるが、物語の主体は怪獣から逃げまとって右往左往する群衆のうちの一人が所持していたビデオカメラと言ってよい。現場から回収されたビデオカメラに記録された映像がそのまま映画の筋立てでもある。こういった物語設定には前例がある。

ブレア・ウィッチ・プロジェクト デラックス版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: クロックワークス
  • メディア: DVD

 クリーチャーの出てこないホラー映画。技ありというかジャンルに於いて一度だけ使うことを許されている禁じ手というか。どれほどグロテスクなモンスターも人の想像力の限度には及ばず、何が恐ろしいと言って生身の人間程恐ろしい存在はない。

 終始一貫した一人称視点の製作技法はブレア・ウィッチ・プロジェクトの二番煎じで、モンスターの姿が断片的に映る分だけサービス精神が覗く作りだが表現手法の如何を問わず、そもそも一人称というのは徹底させればさせる程排他的な世界を構築していくものだと私は日頃考えていて、この映画の公開前に色々とセンセーショナルな前宣伝がなされていた状況には疑問があった。

 結論というか評価のような事を最初に書いておくと、私はかなり否定的な見方をしている。ネタバレは良くないが、本作は元々大して値のない映画なのでネタバレがあったからといってその価値が減じる事もないと私は見ている。それほどまでにくだらない作りだと考えている。

 構成には多少のひねりがある。先に書いたように怪獣が現れて大暴れした後の現場から回収されたビデオカメラに記録された動画、というのが本作の作り方だが、ビデオカメラの記録メディアには先に4月下旬頃、デートの様子が記録されており、映画の出来事はそこに上書きされた5月中旬頃の記録ということになっている。従って映画の進行中では所々断片的に数秒間ずつデートの様子が現れる。事件の間中記録は何度か寸断されるので、上書きされる事のなかった事前の記録が断続的に再生されることになる。

 映画を見ながら私は、事件当日のパニック状況と平穏な過去の出来事を対比させる意味でそういう構成になっているのだと思っていた。次々起こる大破壊の最中にあって報道関係でもない一私人がここまで記録に拘泥する理由は何なのか、何度もカメラを取り落とし、弾き飛ばされても決して手放そうとはぜずに何度も撮影にリトライする根拠は普通に考えればかなり薄い。純然たる一人称形式としてはそこに不自然さを感じる。大量動員目当ての商業主義と先に書いたような禁じ手風の製作手法の折り合いは、再度書くが折衷できる性質のものではないという私の見方はやはり変わらない。

 映画のラスト近くで、避難しそびれた登場人物が怪獣に遭遇して文字通り命と代償にその容姿の全体をカメラに収めるカットが数秒あるがそれは何とも中途半端な印象を与える。結果として本作はモンスターを大暴れさせるところを見てもらいたい大活劇ではないが、だからといって想像外の存在である異形のモンスターに徹底的に蹂躙されてパニックに陥る人間のドラマにも徹しきれていない。

 更に幻滅させるのはラストの数秒間で、撮り残しのテープの末尾には先に書いたように4月下旬のデートの様子が断片的に収まっている。(ここからネタバレですよ)海辺の観覧車で仲良く収まる登場人物の微笑ましい姿で映画は終わる。と、ここで、背後の海、かなり遠方に空中からの飛来物が飛び込む様子が映り込む。映画の最中にノルウェー船籍のタンカーが沈没したニュースがテレビで放送される伏線があったり、ネット上でも架空の企業の海上建築物が破壊事故に遭った架空のニュースなどがあったりもした事から考えるとこの、ラストで小さく見られる海上への飛来物が約一ヶ月弱で成長してマンハッタン島に上がってきた件の怪獣である事は明らかだ。

 物事には語る事による面白さはあるが反面、伏せる事によって受け手の想像力が刺激される側面もあると思う。パニックに翻弄される一私人の視点を徹底させるのであれば、見えない事、把握できていないものがあったほうが怪獣という不条理な存在をより強くイメージさせる働きがあったはずだと私は考えていて、ストーリー上は無理矢理感の否めない怪獣の全容をカメラフレーム内に収めたカットといい最後の飛来物といい、ディティールが無用に説明的な分だけこの映画は陳腐でくだらない。せっかくジャンルの中で一度だけ通用する禁じ手を駆使して構成するのであれば、もっと不明さや不可解さを物語の糊しろとして残しておき、怪獣のイメージは観客の想像力に委ねておくべきではなかったか。描かれない事、語られない事に向かって想像力を働かせることを観客に促す結果、普遍的な評価を獲得した映画は少なくないはずだ。

ストーカー [DVD]

ストーカー [DVD]

  • 出版社/メーカー: アイ・ヴィ・シー
  • メディア: DVD

 「見せない事」の美学というと、パッと思い当たるのが本作だろうか。

 最後に多少の皮肉めいた感想を書き留めておくと、クローバーフィールドという映画で驚嘆するのはモンスターの脅威などではなく、拾われたビデオカメラの耐久性だろうwこれだけ何度も取り落とされたり弾き飛ばされたりして、あげくの果てにはヘリコプターの墜落事故にまで巻き込まれながらこの物体はカメラである事をやめないのだ。

 


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