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There's a Riot Goin'on/Sly & the Family Stone(邦題:暴動/ スライ&ザ・ファミリー・ストーン) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 時節の話題としては、アメリカ大統領の就任式が近い。アメリカン・ニグロが社会的に成功するためには音楽かスポーツ以外にはないと言われていたのがつい四半世紀程前の事だったように覚えているのだが時代というのは変遷していくものなのだと改めて思う。

 明らかに期待を持たれ過ぎ、過大な幻想を担わされているように私には見えるが、それでもバラク・オバマ氏の就任演説は一世一代のものになるだろうから同時代人としてはしっかり記憶にとどめておきたい。私は特段、オバマ氏の信奉者でも何でもないがかの人は単純にテレビ映りがいいというか、優れたアクターでもあるような見え方がしている。こういう時節に融和や協調を掲げて大統領に就任する構図は何か時代の空気と随分調和がとれていて収まりが良い。安っぽい言い方だがある種、トリックスターのようにも思える。だが私はどこかでそのスローガンはいずれ何らかの形で蹉跌を味わう事になりそうな予感も払拭しきれいないでいる。どこかでそんな前例を見てきたように覚えている。

  音楽の世界に視点を移してみると、1960年代末期のスライ・ストーンは人種間の融合を成し遂げた存在として画期的だった。白人はロックで黒人はR & Bという境界線を軽々と乗り越えた革新者として華々しかった。映画に記録されているウッドストックでの熱狂ぶりは今見ても気恥ずかしいくらい人種間の融合や協調への確信を感じさせるものだ。

ウッドストック~愛と平和と音楽の3日間~【ワイド版】 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD

 1969年から1970年にかけてのアメリカ社会の屈折や騒乱ぶりは遠く太平洋を挟んだ島国に住む私のような子供にも断片的に伝わってきた。 ブラック・パンサーとかウェザーマンとかいった団体名がいささか物騒なニュアンスを持って伝えられていたような記憶がある。当初の楽観的な融合願望はそのうち階級闘争的な対抗意識に変質し、騒乱の後はセパレーショニズムに落ち着いて表面上は平静を装いながらも内実では分断が確立されていく、といった経過を辿った事になるのだろうか。いつの時代も隔てられた人々が融和的になるのは大変困難なものだ。

 当時小学校の高学年だった私が、兄の買ってきた音楽雑誌を拝借してページをめくっていると、CBSソニーの広告ページに掲載されていた大きなジャケット写真が目に入った。

暴動

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  • 出版社/メーカー: エピックレコードジャパン
  • 発売日: 1997/01/22
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 大写しのアメリカ国旗にタイトルが『暴動』とはまた何とも不穏というか戦闘的というか大変政治的な匂いを当時の私は感じ取っていて、しばらくの間は敬遠していたのだった。政治的な、という意味ではビートルズ解散後のジョン・レノンなどがいくつかそういう類いの曲を演じていたが、それらは傍観者の一意見というふうに受け止め方の出来るものであったのに対してこちらは何かしら当事者のメッセージでありそうな分だけ重苦しいムードが感じられた。

 気になり続けてはいたものの中々購買する気にはなれなかったのは、R&Bに関心が向かうようになるのはそれからずっと後、年齢でいえば20代後半になってからのためもあるが、ジャケットデザインが購入にある種の覚悟を要するもののように感じられたからだ。

 一聴して驚いたのは大変否定的なニュアンスが充満した音楽だった事だ。悲観的と言った方がより近いのだろうか。特にマイナーキーの曲が多いという事ではないのに全編に倦怠感や疲労感がたちこめている。最終曲の『サンキュー』はシングルバージョンとは全くの別物で躍動感とはほど遠く、陰鬱で重い。それまで聴いた黒人ミュージシャンでいえば唯一、ジミヘンの音楽にはどこか通じるところがありそうに聞こえた。ジミヘンは生前の活動に於いて黒人聴衆のまとまった支持を受けられなかった。勿論偉大なミュージシャンではあるけれど同時に『ロックを演奏するなんていうのは白人に対する媚びであってこんな奴は黒人の風上にも置けない』という偏見に晒され続けた人でもある。 先に書いたウッドストックで会場撤収の朝に登場したジミヘンは、気のせいかどこかかったるそうで反応の鈍いサイドメンに苛立ちながらの演奏ぶりだったように私には記憶されている。映画の上では対照的に前向きでエネルギッシュなアジテーターぶりを見せたスライ・ストーンはその後の本作であのときジミヘンに通じるムードを漂わせている。

 初めて聴いた頃の私はフリーターのような事をやっていた時期で、依って立つ足場を失い、先の展望も見えない中で私は最初に知ったときの抵抗感が嘘のようにすんなりとこのレコードに手を伸ばしていた。持ち帰って聴いてみると本作の放つ疲労感や敗北感とか投げやり風だったりヤケッパチ風だったりする歌いっぷりが当時の心象風景にひどく馴染んだ。これは、大きな挫折の音楽なのだ。かつて語っていた大きな希望に裏切られて、以前は健全な夢に突き動かされて熱病のような興奮の中にいた自分を嘲笑混じりに語るシニカルな自画像なのだ。

 音楽そのものについて私が随分驚いたのはリズムマシーンの導入だった。ロック小僧にはどうしてもブラック・ミュージックに対するある種の劣等感があってそれはリズムの躍動感に根ざしている。あの有機的な、生命の鼓動そのもののような弾み方は単に一小節を幾つに切り分けるかといった決まり事だけでは絶対に解き明かせない秘密がある。しかしここではそれを敢えて放棄するかのように無機的そのもののリズムボックスにタイムキープは委ねられていながらも全体のカラーは疑問の余地なく真っ黒けであり、紛れもなくこれはアフロ・アメリカンの音楽以外の何者でもない。それまで長い事、ブラック・ミュージックをかくあらしめている根拠をこのとき私は見失った訳だが、ではその核心部分はと言うと未だにわからないままでいるし、わからないままでいいのだと思うようにもなってきた。何もかもを無理矢理言葉として定義しなければならなくはないのだし、説明不可能なある種の神秘性がこの音楽に対する関心が保たれるという働きも認めていて良さそうだ。

 時代の状況に歩調を合わせるように、表現者としてのスライ・ストーンの人間観や世界観が否定的な方向に大きく転換していく大きな節目が本作のバックボーンを形成している訳だが、リリースされてから約40年近く経過してみるとこれだけ排他的であり内省的でもある作風の本作を出発点とするフォロワー達が陸続と輩出され続けたその量に驚く。 それは例えばその後私が耳にしてちょっと気になったこんなシンガーの歌唱にも反映されていた。

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  • アーティスト: UA
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 1996/10/23
  • メディア: CD

 異なる民族や異なる社会階層の人々が融和的に一体化されるなんていうのは絵空事に過ぎない、という痛烈な視線はスライ・ストーン自身が大いなるトリックスターだっただけに尚更鋭い。きっと現実の合衆国も、現在オバマ氏を押し上げている暖色系の幻想が失望や幻滅を伴って崩壊していきそうな予感が私にはどうしても拭いきれない。かつて華々しく浮揚して潰えた夢が今度は実現されるのだという確たる根拠がどうにも感じられない。しかしこの先の経過がささくれだったセパレーショニズムの再現に収束してしまったにしてもそれはそれで一つのありようとして受け入れられていくのだろう。

 本作はそれまで通り相場として刷り込まれていたブラック・ミュージックの色合いを大きく裏切ってネガティブであり排他的でもある歴史的な問題作でもあるのだが、でありながら本作での身振りは少なくともその表層部分に於いては驚く程長期にわたって驚く程多くのフォロワーを生み出し続けてきた。それは本人が望んだものではないのかもしれないが融和性を持った一つの世界の形成と解釈する事も出来そうな気がする。してみると果てしなくシニカルで逆説的な音楽だとつくづく思う。

 追記のような事:このテキストは私がブログを始めてから音楽の事を何か書き殴り続けて100個目にあたる。色々な意味で節目だなあという気がするし、本作は節目として取り上げるにふさわしい傑作だと思う。ふさわしくないのは相変わらずまとまりがなく無用に長くなってしまう私の作文能力だけですなw


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シロタ

映画「アクロス・ザ・ユニバース」とか「チェ」とか、どうも昨今、60〜70年代カルチャーが席巻してるのは、世界が今、
>依って立つ足場を失い、先の展望も見えない中
に在るからなのかなあ、などと根拠もなく茫漠と感じる次第です。

東西冷戦が終結して10数年の現在、60〜70年代の寄る辺なさと似たものがあったりするんでしょうか。

ともあれ、個人的に
>大きな挫折の音楽
とは、非常に興味深いです。



by シロタ (2009-01-23 11:34) 

shim47

シロタ様 コメントありがとうございます。
徹底した同時代性が普遍性を獲得する事もある、という稀なケースもあるようです。
時代の気分という意味では同感です。同じ事の繰り返しが続いているようではありますが、そこには幾ばくかの学習成果があるとは思いたいところです。
by shim47 (2009-01-27 02:26) 

いっぷく

音楽記事が100になりましたか、それはすごいですよ。
私の音楽の聴き方では記事は書けないなあと実感します。
きわめて感覚的に、好きなものをそばにおきたいという個人的な嗜好のみで、のめりこんでいる音楽を自分は言葉で表せないからです。


by いっぷく (2009-02-03 03:30) 

shim47

 いっぷく様、コメント有り難うございます。
私は元来根気のない性分なので、一つのことを長く続けられたことがわかると妙に嬉しくなったりします。
 音楽そのものについての素養はないのであくまで音楽の周辺をうろつき回るだけのテキストしか書けないところが私の限界ですが、内容はさておきひとまず100という数字については何事かの区切りかなあという気がしています。
 
 
by shim47 (2009-02-04 09:54) 

シロタ

こんにちは。

先日、「There's a Riot Goin'on」を聴いてみたのですが、想像していたよりも穏やかに、すんなり馴染みよく聴けてしまったのが驚きでした。居心地のよい諦めとでもいうか。

それから、Slyを聴いたらPrinceが聴こえるようになりました。別に今までも聴いてなかった訳じゃないはずなんですけど、断然耳がひらいた感じです。
ライナーノーツによると、Princeもこのアルバムに影響を受けたひとりなんですね。

by シロタ (2009-07-23 14:27) 

shim47

シロタ様 レスが遅れました。
プリンスにはジミヘンの影響も見て取れるように思っています。
以前、私が会社員だった頃に職場の飲み会で入ったバー(のようなところ)で、
店のテレビでジミヘンのライブを見た私よりも一回り近く年下の事務の子が
「この人、何だかプリンスみたいですねえ」と宣い、私は「こっちの方が先なんだよう」
と、妙にムキになって講釈をぶったことを思い出しました。
やたら含蓄を垂れたがるオヤジというのは我ながら感心出来ませんが。
by shim47 (2009-07-27 01:25) 

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