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New Colors/Freddie Hubbard(ニュー・カラーズ/フレディ・ハバード) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

  先日、FMラジオ放送を聞き流しているとフレディ・ハバードの追悼特集に行き当たった。昨年12月に物故されたらしい。享年70歳。トランぺッターらしいトランぺッターがまた一人、世を去ったことにはやはり一抹の寂しさを禁じ得ない。
 聴き馴染んだことのあるミュージシャンが亡くなるのは時間が流れている以上仕方のないことでいずれは私自身にもそういう時はくる。リアルタイムでジャズを聴く時間にはかなりブランンクがあるので今はもう、知らない人ばかりになってしまった。少々寂しい気分になる理由の一つはそういうところにあるのだろう。
 
  フレディ・ハバードはサッチモから始まってディジー・ガレスピーを経由してクリフォード・ブラウンへと繋がる、言ってみれば王道的な佇まいを感じさせるトランぺッターの系譜に位置している。すなわち、陽性でパワフルなトーンを持ち、直線的な突進力に富んだプレイヤーで、野球に例えれば右投げオーバースローの豪速球投手といった感じだろうか。
 
 毎度不思議に思うのだが、なぜかこの、王道的な系譜のトランぺッター達は概して日本のリスナー達に人気がない。唯一例外は若くして悲劇的な人生の結末を迎えてしまったクリフォード・ブラウンだけといっても良いのではないだろうか。サッチモをジャズとしてシリアスに聞く人は少なくとも私の周辺にはあまりいないし、ガレスピーは気の毒ほど人気がない。
 これは私の想像の域を出ないが、意地の悪い見方をすればクリフォード・ブラウンがこうも神格化されているのはああした死の悲劇性に由来しているからであって、もしも生きながらえてキャリアを積み重ねていったとしたら、おそらくここで取り上げるフレディ・ハバードのような立ち位置のプレイヤーになっていたのではなかろうか。
 

  ”フレディ・ハバードのような”と敢えて書く理由は、この人がシリアスなリスナーからは必ずしも高く評価されていない一面があるからで、マイナス評価の理由は商業主義的で楽器奏者としての真剣味に欠けるレコーディングをかなりの量でリリースしていたある時期を指している。実際、そういうブツをつかんでしまった方には御愁傷様と言う他なく、何を隠そうこの私も過去に於いては用心しながらもつい何度かはスカを引いてしまって腹立たしい思いをしたことはある。

 スカを引いてしまった方にとっては腹の虫の治まらない話かもしれないがしかし、この手の王道的なラッパ吹きにはそういった困り者の記録が必ず散在しているものなので時たまスカを引くのは仕方のないことだとあるときから私は無理矢理納得することにした。というよりもそもそも、先に例えた野球選手のように、トランぺッターという人種には総じてこれから演奏する音楽の全体的なストラクチャーについて予め頭の中に青写真がある人自体が殆どいないのではなかろうか。(その例外がマイルスではないかと私は考えている)

 先人の系譜をたどれば、サッチモにせよガレスピーにせよ疑問の余地なく偉大なプレイヤーではあるけれど、一つのパッケージメディアとして構築性の高い音楽は殆ど残していない。但し反面、彼らはしばしばジャズの枠を踏み越えて、もっとポピュラーな世界で華々しいソロをとることがあって、フレディ・ハバードにもこんな記録がある。

ニューヨーク52番街

ニューヨーク52番街

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Music Direct
  • 発売日: 2006/04/19
  • メディア: CD
 信者に囲まれた予定調和の世界ではなく、不特定多数の視線に耐え得る一般性とでも言ったらいいのか、誰もがトランペットとはこんな風にプレイされる楽器なんだ、と、ストレートに納得がいって更に『ああ、この人が演奏しているんだな」と、これまたストレートに判じ得る個性が横溢する。エース級のジャズトランぺッターというのはそういう人たちであってフレディ・ハバードもまた優にその水準に達した巨人の一人だ。これは決して故人であるから美化しているわけではない。
 

 かつてスイングジャーナルという雑誌で油井正一氏は「かつては芥川賞を取りながら現在はポルノ小説ばかりを書き飛ばす流行作家」という痛烈な比喩でフレディ・ハバードの新作を皮肉ったことがある。当時の私はその喩えに手放しで共感したがある時からは文学作品だろうがポルノ小説だろうが読んで面白く、ためになるのならカテゴリーは二の次と思うようになったのでフレディ・ハバードのありようには結構肯定的な見方をするようになった。但し、やっぱりスカは掴みたくないが。

 

 その演奏歴には毀誉褒貶が相半ばするにせよ、後進達の演奏スタイルにはフレディ・ハバードの影響が感じられる人たちが実に多いところから考えれば、以前のクリフォード・ブラウンがそうであったように彼は多くの新人達にとっては偉大なる指標だった。 これには疑問の余地がないと思う。

 病気のため長いブランクを要し、楽器を演奏できない時間がかなり長かった間に再評価されたのは良いことだった。シリアスではない音楽に携わることで身銭を切って音楽を聴くリスナーを落胆させるのは確かに好ましいあり方ではないのだろうが、楽器奏者としての偉大さとは別のところで論じられるのが自然だと考えている。

 

 レコーディング・キャリアの中ではかなり後期に属するのだろうが以前私がご祝儀的に当時買ったCDをさっきまで聴いていた。

 

ニュー・カラーズ

ニュー・カラーズ

  • アーティスト: フレディ・ハバード
  • 出版社/メーカー: 日本クラウン
  • 発売日: 2001/04/25
  • メディア: CD

  病を克服してカムバックを果たしたフレディ・ハバードが中編成のホーンアンサンブルをバックに往年の当たり曲を再演する企画である。

 さすがに往時に比べれば少々パワーダウンの印象は免れず、私個人としてはフリューゲルホーンよりもトランペットの方がこの人には似つかわしい気がするが、それらを差し引いても全編シリアスでなおかつかっこいいのと私のお気に入りのRed Crayも抜かりなく収録されているので買っても後悔することはない。共演者である若手のプレイヤー達とはやはり一線を画した貫禄を感じる。キャリアの終わりにこういった真剣味や重量感のある佳作を残してくれたのはやはりプレイヤーとしてのある種良心というか、即興演奏に賭けるスピリットの発露と私はかなり好意的に捉えている。理屈抜きに堂々としていてかっこいいトランペッターの系譜は今後どのように継承されていくのかはちょっと気がかりではあるのだけれど。


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