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Lee Morgan Vol.3/Lee Morgan (リー・モーガン Vol.3) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 長く音楽を聴いているうちに現れてきた変化の一つに合奏部分とか音の重なり具合に注意が向かうようになってきたのがここしばらくの私である。具体的に言えば編成の大きなものとかアンサンブル・パートの多いものを以前よりも良く聴くようになってきた。

 ジャズでいえば仕掛けが少なく、ソロのリレーに終始するブローイング・セッションを聴く頻度はやや低下傾向にあるがそれでも一定割合で聴くことは聴く。これまで何度も書いた通り5年前に貧乏自営業を開業してからの私は暇ができたので若い頃に買ったきりろくに聴かずにいたレコードをあれこれ引っぱり出して聴く機会が増えてきたのだが、買った当時はちゃんと内容が把握出来ていないまま一回聴いて終わりだったものがたくさんあって、これなどもその一つだったことになる。

リー・モーガン Vol.3+1

リー・モーガン Vol.3+1

  • アーティスト: リー・モーガン,ジジ・グライス,ベニー・ゴルソン,ウィントン・ケリー,ポール・チェンバース,チャーリー・パーシップ
  • 出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
  • 発売日: 2007/09/26
  • メディア: CD






 本作を買った当時の私は、 I Remenber Crifford一曲だけがお目当てで、それ以外の側面には特段注意を払っていたわけではなかったのだが時間を置いて聴き直してみると、いろいろと奥行きのある一枚だったことに遅まきながら気づいた。
 長いこと棚の中に眠り続けていた理由の一つに、私は本作でクレジットされているテナーサックスのベニー・ゴルソンが今ひとつ苦手で、ついでに言えばアルトのジジ・グライスもプレイヤーとしてはあまり印象に残っていないことも付け加えて良さそうだ。更に言えば本作でのウィントン・ケリーのプレイが当時は遠慮がちに聞こえたせいもある。ブルーノート・レコードがプロデュースするリー・モーガンとなれば火の出るようなソロが連続する直球勝負ばかりだと思い込んでいたのだろう。

 今更私などが講釈を垂れるまでもないのだが、本作のジャケット裏には "Compositions and arrangements by BENNY GOLSON"とクレジットされている。参加メンバーはジジ・グライスとポール・チェンバースを除いて4人が当時のディジー・ガレスピー・ビッグ・バンドに所属している。従って本作は、ブルーノート・レコードに於けるリー・モーガンのリーダー作の三つ目であると同時にベニー・ゴルソンの作編曲に基づいたガレスピー・オーケストラのボス抜きセッションでありピックアップ・コンボ作品集であってこの切り口から見るとベニー・ゴルソンのリーダー作でもある。
 そういうわけでよくあるブローイング・セッションに比べると『あらかじめ書かれた』パートが非常に多い。具体的に演奏様式で言うと、通常良くある3ホーン、3リズムで聴かれるピアノのバッキングがここではかなり控えめで、代わりにソロ楽器以外のホーンの合奏がほぼ間断なく鳴っているという小型ビッグ・バンド(何とも矛盾した言い回しだが私の頭ではうまく表せません)的なバンドトーンが全編の底流をなしている。

 今聴いているとこの、いわゆる「ゴルソン・ハーモニー」はやけに耳に心地よい。ブレイキー御大のジャズ・メッセンジャーズ以外にもブルーノートにはこんな形でベニー・ゴルソンのホーンアレンジは残されていたことをだいぶ長いこと私は見落としていたのだった。
 思いつくままあれこれ断片的なことを連ねると、本作一番の人気曲だろうと思われる "I Remember Clifford"ではホーン陣のうちリー・モーガン一人だけがソロをとり、残りの2名はバッキングのみに終始する。本人の物故から約一年後での録音であることも関係あるのだろうが、本人のアドリブの一節がテーマになっていると伝えられるこの曲で管楽器ではトランペットのみがソロをとる、というアレンジは希代の名トランぺッターに対するリスペクトの現れか、などと想像すると私などは少々ホロッと来るものがある。

 ウィントン・ケリーはよく聴かれるいい意味でのはしゃぎっぷりを押さえてあまり多くないソロスペースをタイトにまとめるので全体の印象はリズムの弾け方よりもハーモニーの流麗さが前面に出る作りだが、ベニー・ゴルソンが主導権を握るアレンジメントとはそういうものなので、役どころをよく心得た好演ということか。

 今更ながらホーンアレンジの巧妙さについつい聴き入る本作での最大の見せ場は二曲目Domingoでの終盤だろうか。リー・モーガンの鮮烈きわまりない奔放なソロから一転して三本のホーンが織りなす一コーラスにわたる複雑で起伏に富んだユニゾンに切り替わっていく展開は何度聴いても理屈抜きにかっこいい。
 最後になんだが、当然ながら名義上の主役であるリー・モーガンがこれまた理屈抜きに素晴らしい。新進気鋭とはまさにこういう演奏ぶりを指すのであってソロにバッキングにと八面六臂の大活躍である。もしも楽器の出音に色があるとするならガレスピーやクリフォード・ブラウンは紛れもなくまばゆい黄金色なのだがリー・モーガンもそこにカテゴライズされるトーンの持ち主であることには疑問の余地がない。多少付け加えるなら、少々腰の高い、上滑り気味の軽さは彼を『トランペットの巨人』として無条件のリスペクトを集める存在とするには少々割り引き材料になってしまったかもしれないが、皆に愛される永遠のワンダーボーイとしておそらく多くのリスナーの記憶にとどまり続けていることだろう。
 
 知的な大人達によってあらかじめ周到に用意された最高の背景をバックに驚異の新人が見事に見栄を切ってみせるという、若さや馬力一辺倒ではない本作の構図に遅まきながら私が気づいたということは私もまたそれなりに視野が広がってきたということかと一人で妙に納得する。翻って何のよりどころもなく、何の手持ちもなく、おぼつかない足取りと手探りで恐る恐る世間様にデビューした私の、絵に描いたような凡庸さに今は苦笑いしたくもなる。
 

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だーだ

好きな1枚なんですが、そんな音楽的背景のことなど全然知りませんでした。
まとめて入手した中古盤を聴き散らかしているだけなもので・・・

勉強になります。

by だーだ (2009-05-08 05:02) 

shim47

 だーだ様、ご無沙汰しています。
 実は以前、だーだ様のブログでジンガリと一緒に映っていた画像を目にしたのが本作を聴き直してみたくなったきっかけなのです。
 他にも結構同じようなケースがあって、ご謙遜されておられますが私はだーだ様の美意識を尊敬しています。
by shim47 (2009-05-08 18:32) 

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