ジャズ・アネクドーツ(ビル・クロウ 著 村上春樹 訳) [書籍]
何となく買い込み、たまにパラパラと拾い読みする類いの本。
その全てが実話かどうかは不明だがいかにもありそうな小話の集積ではある。
エピソードを一つ、転記しておく。ご登場いただくのはこの人
かつてはブラック・ナショナリズムの闘士だったアーチー・シェップその人。恐らく1970年代中期の事かと思われる。本書の37ページあたりにその記述がある。
(引用始め)ビーヴァー・ハリスはあるジャズ・ツアーのときに、東京のテレビに出演した。そこでの出来事を、彼は次のように述べている。
アーチー・シェップがマイクの前に進み出た。誰かが彼の言葉を通訳する事になっていた。通訳は言った。『シェップさん、日本の感想はいかがですか?」。我々はみんなで一列になって立っていた。リー・コニッツと彼のバンドが一曲演奏を終えたあとだった。
アーチーはカメラをまっすぐ正面からのぞき込む。そして言う、
「私たちは平和のうちにここにやってきました。私たちは広島に原爆を落としたアメリカ人とは違います」
そしてグラチャン・モンカーが言う、
「おい、こいつら(these motherfuckers)にそんな事思い出させちゃダメだ!」
これが全部テレビ中継された。私はあわてて中に割り込んだ。「いや、私たちはリズミカルななんだかんだをなんだかんだしようと・・・・」と適当な事を言った。そうでもしなかったら、俺たちはその場で逮捕されていたかもしれない。 (引用終わり)
事の真偽はともかく、いかにもという感じの小話ではある。
おおよそ登場人物はキャラが立っていて、例えばマイルス・デヴィスは金の事であれこれ難癖を付けてはごねる話、ベニー・グッドマンは独善的なバンドリーダー、ズート・シムズは酒にまつわる話題などなどで本書は出来上がっている。この手の小話が生まれてくるのもある時期までのこの業界が一癖も二癖もあるアウトサイダーがかった豪傑が入り乱れる世界だったからなのだろう。ある時期からの、勉強秀才ばっかりが幅を利かすようになった(ように私には見える)状況からはきっとこういう本が出来上がるような事はなさそうに思える。それがいい事なのかそうでないのかはわからないが。
コメント 0