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青いくれよん/菊池弘子 [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 音楽の事を書きたいのか、それとも私自身の過去の事を書きたいのか頭の中で整理がつかないのだが、ネットというのは時に本人がとうの昔に忘れていた過去の記憶を生々しく喚起させてくれる事はひとまず書き残しておきたい。

 今から30年以上も前、たまたまラジオの深夜放送で何度か聴いた事のある曲がずっと意識の奥底にこびりついていたのだった。曲名も唄っている人もわからないまま30年以上経っているという事は、実のところ私がその音楽にさほど大きな関心がなかったのかというとそうではないように思う。

 その曲は何だかやけに私の琴線に触れるものがあった事は確かだ。同時に中学生だった頃の私からは大変遠いところにある音楽だった事もまた確かだ。 どういう連想が働いてそこに辿り着いたのか、私は昨日、偶然その歌の事を知った。

 1970年代中期に陸続として現れては消えていったフォークシンガー達のうちの一人、 マイナーポエットだ。そしてまた、ベタな歌だ。聴いていて気恥ずかしくなるような歌だ。今でもそうだが私はどうも情感というやつをあからさまに言葉として投げかけられるのが苦手だ。大体世の中、ありとあらゆる出来事のうち言葉で表現しきれるものなど幾らもないのであってわけても人の心象風景はその最たるものだといつの頃からか思い込んでいる。

 しかし、手っ取り早くがさつな「言葉」ではあるが、そのようにしてしか伝えようのない事や場面や人は確かにある。人の声で唄われて音楽となる事で何かしらある種の魔法が生まれる場合があるのも否定しない。 この曲は少年期の私が気恥ずかしくなるようなある種の気分を喚起させた。もしかしたら今に至るまで私自身が目を背けているある種の内面がここには現れているのかもしれない。

 記録された音楽を購入して所有するのは現在ほどお手軽な時代ではなかったその頃、 ラジオというメディアは金欠少年にとって大変有り難いものだった。当時私はリアルタイムで聴くだけで、テープに録音するという手段がなかったなかったのでそれはある種、偶発性に頼らなければならない切なさを伴っていた。歌のモチーフは恋愛に関するある種の切なさだと思うので当時の私は二重に切なかった事になる。(こういう事を臆面もなく文字にするのが気恥ずかしいのですよ、私には)

 この歌は当時、コッキーポップという番組で時たまオンエアーされていた。大石伍郎がDJを務める、ヤマハ(当時は日本楽器)がスポンサードする番組だった。私は中学生の頃から既に精神の屈折が顕在化していたのでこういう音楽にどこかで惹かれながらも自分には関係ない世界だと決めつけて目を背け続けていた事は既書いたが、それなりに生活時間を積み重ねてその頃よりは幾らか許容幅が上がってきた(と思いたい)現在になって素直に耳を傾けてみると、なんともキュートで切ない世界だ。(それを言葉として安易に書いてしまうのに抵抗があるのだが)菊池弘子嬢は結局、シンガーとして大成する事もなくフェードアウトしていった。細部を小姑のようにしてつぶさに聞き取っていけば大成しなかった理由も何となく納得出来はするが、マイナーポエットが経験したり表現出来たりする一回だけの魔法、その人の人生に於ける一回だけの特別な時間がここには確かに記録されていると思うのだ。30数年、記憶のどこかにこびりついていた理由というのはその辺ではないかと今は考えている。

 余談だが、あるブログを見ていると菊池嬢の事が幾らかは書かれたテキストがあって、当時の自己紹介では好きなミュージシャンがなんとジミ・ヘンドリックスとの事だったそうだ。私はこの人の唄う世界とジミヘンのどこに接点があるのか全く察しがつかないが今となってはそれをご本人に確かめる術もない。

 もう一つ余談を。

 中学校を卒業してから私は進学先で寮生活を送る事になった。入学直後、同室となった男はどうも私とは感覚的にそりの合わない人物で年がら年中この手の歌ばかりを聴いていた。その男がラジカセに録り溜めておいたなかにこの歌はあって私は結構気になっていたのだが、くだらない意地を張っていたせいでそれが何という曲で誰が唄っているのかを尋ねる事もその曲を聴かせて欲しいと彼に頼み込む事もないまま半年間の同居期間を終えた。再びこの歌を聴くまでになんと30年以上もの空白だ。

 そして昨日、ダウンロードを済ませた私は妙な意地を張り続けた30数年を自省しながら何回も繰り返してこの歌を聴いている。自省するようになった分だけ大人になったのだとは思うが聴いたり書いたりして気恥ずかしい気分になる部分については中学生の頃から成長していない事も知った。


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