来訪者 [再生音楽の聴取環境など]
ここ半年ばかりの間にお仕事関係で面識の出来たHさんが実は古参のオーディオファイルであることを何かのときに知った。以来、お会いしているときには本筋のお仕事の話だけでは終わらないことが多い。
Hさんは拙宅のターンテーブルにご興味を示された。LTAを使われたことはまだないそうだ。
これまで何度も書いてきたように、LTAにはカッターヘッドと同じ軌跡を描いてトレースするという原理上のアドバンテージはあるもののそれと引き換えに山ほど多くのハンディを抱え込むことにもなる。
ついたてスピーカーには全帯域フラットレスポンス、振動版の前後対象動作という長所はあるがこれまた多くの欠点が原理的に存在する。 取りまとめると、私の自宅のメインシステムはDレンジと音量を欲張らないことを前提としたやせ我慢の産物である。このテキストを書いている今にして思えばHさんは数度ご来訪して冷徹に拙宅の泣き所を探り当てた模様だった。
しばらく前のある日、HさんからLPレコード持参の上でお邪魔したい旨のご連絡があった時、ついたてスピーカーを手に入れて以来かれこれ20年強の時間がしょうもない独りよがりだったことを暴き立てられることになりそうな予感がした。やがて玄関チャイムが鳴って現れたHさんのご持参されたLPレコードのうちの一枚がこれである。
テラークというレーベル名を目にしたとたん、予感が確信に変わった。さすがにHさんは筋金入りで甘くはない。
テラークと言えばかの「1812年」でリミッターをかけずに本物の大砲の音を録音したプレスで名を馳せた。当時私の周辺ではあの盤をびりつかせずにまともにトレース出来たのはデンオンのDP-100だけだったように覚えている。
こちらは同じくリミッターをかけずに(だったかな?)鐘の音がカッティングされている。録音現場から近くにある協会の鐘楼にマイクをセッティングして延々とケーブルを伸ばしてミキサーに取り込んだのだそうだ。音楽そのものの出来は当然としてプレイバックに手こずるのはこちらも「1812年』といい勝負、ということは私の持ち物であるLTAでは目を覆いたくなるような場面は容易に予想されており、実際には予想以上の無惨さでもって再生された。いやもう至る所針飛びとクリッピングの連続で持ち主としてはがっかりである。
あらは他にも色々、嫌になるほど沢山だ。ティンパニの連打ではもろに定在波が乗ってローエンドがモヤモヤと曇る。フォルテではスピーカーのダイヤフラムがグリッドにぶつかってパンパンという付帯音が出る。挙げ句の果てには針飛びだ。みっともない事この上ない。少し前にHさんとはLTAとオフセットアームについて少し話した事があった。確かその時HさんはLTAはカンチレバー側から見たときのムービングマスが小さい点と支点が明確でない点を指摘されてDレンジの大きなレコードでは必ずなにがしかの問題が出るだろう、とご指摘されたように思う。
それは私がこれまで薄々自覚していた事でもあったのでその時には痛いところをついてくるなあ、と、 思ったものだ。確かにこれまで意図してそうしていたわけではないが私の聴く音楽というのはそういう問題点の露見しなさそうなものばかりだった。
何せ、音はビリつきまくり、針飛びはギャンギャン起きるぶざまなプレイバックに私は意気消沈したのだ。この状況、この心境はどういう風に例えれば良いのだろうか。とにかく大変かっこ悪い気分になったのは間違いない。腕組みをして立っているHさんをちらっと見るとポーカーフェイスであるところが尚更気まずい。 私は少なからずみっともない気分になっている旨を告げた。Hさんはわりかし平静で、今日の目的は問題点の検証であると仰る。私のターンテーブルではどうにもならないソースである事は歴然で、アームのセッティングを詰める気にもなれないというとそもそもまともにトレース出来たプレイヤー自体が幾つもないのだという。確かそのうちの一つがexclusive P3だったと仰っておられたように覚えている。
私の持ち物とは対極にある風貌の、重厚長大、威風堂々のターンテーブルだ。思い出してみると私がオラクル+SAL-3+(ちょっと改造) を買い込んだ頃、P3はまだ現役で、しかも金額としてはいい勝負だったはずなのだ。だが当時、私の頭の中に候補としてのP3はなかった。大体私は根がへそ曲がりなのでこういういかにも王道風の佇まいであるターンテーブルを遠ざけたい気持ちがあったのかもしれない。考えてみれば私の持ち物であるコンポーネントは全部そうだ。だからある限定された条件の範囲内でだけはそこそこ上首尾でそこから少しだけ外れると途端にダメダメなプレイバックとなる。
ここで一つの教訓と示唆をHさんから与えられたはずなのに私はこれから改善に努めようと言う気持ちが実はない。何かやろうにも今は先立つものがないのだ、だとか1セットで全てを満たしてくれる再生システムなどはないのだからこれはこれでいいのだ、だとかいったいいわけをこねくり回しながらその後はいつもの聴取環境へと戻っていく事になる。美学の域に達しているとはとても言えないがやせ我慢もまた一つの佇まいではあると無理無理自分に言い聞かせる。
JBL L-40とお別れ [再生音楽の聴取環境など]
最近、旧来の知人が音楽を聴き始めるようになった。愛好者が増える事は単純に喜ばしい。我が家で休眠状態になっているスピーカーを差し上げる事にした。
かなり以前になるがある方から譲り受けたものだ。 掲載した画像は実際に私が所有していたものではない。
譲っていただいた個体は片方のツィーターが凹んでいた。ありがちな話だがドームツィーターとかコーンスピーカーのセンターキャップは子供の攻撃対象になりやすい。何かしら、本能的に指で押したくなるもののようだ。
ウーファーのウレタンエッジはぼろぼろに劣化していたので当時私はリエッジキットを買って修復した。確か三千円くらいだったと覚えている。手前味噌だが、私が手がけたにしては結構うまくいったのではないかと勝手に思い込んでいて、その後しばらく上機嫌で鳴らしていた。
LDをどうするか [再生音楽の聴取環境など]
今時、レーザーディスクで映画を見る事に拘泥するオヤジの姿というのは傍目からするとかなり滑稽に映りそうな気がする。それは他でもない私自身の事だ。
以前にも書いた事があるが私のところには大体100タイトルくらいのLDがあって、最後までをまともに見通せるものが暫時減少傾向にある。言い換えると再生途中でエラーが出てしまう場面がだんだん増えてきた。ソフトの側で記録面の状態をおかしな事になっているのか、それともLDプレイヤーの本体側が不調なのか、目下のところ原因の切り分けは出来ていないのでこの先どうしたものかと思案中。
DVDが出始めの頃、その画質は全くもってお笑いぐさとしか言いようのない劣悪さで私などはせせら笑っていたのだがその一方、いずれそれはLDの画像を抜き去るであろう事はどこかで薄々予感していた。 顧みてみると我が家のLDPはおよそ10年落ちの代物で、使い倒して完全に元を取ったとは思えないが次を思案してもおかしくはないコンディションではある。それでAmazon.comを見てみると何と、同じ型式のLDPがまだ販売されている事を知って驚いた。
Pioneer CLD-R5 CD/LDプレーヤー (ゴールド)
- 出版社/メーカー: パイオニア
- メディア: エレクトロニクス
もう一つ驚くのはその販売価格で、こんなに高価な機材だとは未だに信じられない。記憶違いではないと思うが以前私はこの機種を5万かそこらで購入したように覚えている。勿論新品でだ。いつの間にこんなに値上がりしたのだろう。
しかしYahoo!!オークションなどを眺めていると嘘みたいな値段で投げ売りされているようでもある、一体どっちが本当なのか。どうせ私が見る映画といえば100円レンタルの旧作ばっかりだし引っ越しもそろそろ考えなければならないので、いっその事LDなどはきれいさっぱり処分してしまうのが賢明なのかもしれないといささかやけっぱち気味の考えも払拭しきれない。
朗報! [再生音楽の聴取環境など]
黒いターンテーブルについて(その2) [再生音楽の聴取環境など]
黒いターンテーブルについて [再生音楽の聴取環境など]
SL-01が発売されたのは確か30年ほど前で、優れた内容であるにもかかわらず当時はあまり売れなかったように覚えている。単体のフォノモーターSP-20相当品と単体のトーンアームEPA-100に準じたものをコンパクトなソリッドボードに組み込んだものが当時の定価8万か9万円だったのだから考えてみると随分お買い得な製品だが、『重いもの程出来が良い』という長岡鉄男的価値観の刷り込みの強さと下を見ればSL-1200,上を見れば単体フォノモーターSP-10Mk2,ついでによそ見をすればジャケットサイズでLTA付きのスタイリッシュなSL-10という当時のテクニクスの圧倒的に華やかな商品構成のためか影が薄かった感は否めない。 しかし今日、一度は死滅したと思われたLPレコード再生もどうにかこうにか細々と生き存え、聴く人の私もだんだん大上段に振りかぶったようなステレオが重苦しく思えるようになってくると、このたいして売れなかったと思われるターンテーブルがだんだん気になってき始めてきた。内容は濃く、大袈裟ではない佇まいは今の私には結構好ましい。 世の中、似たようなことを考える人は結構いるらしく、SL-01 はオークション市場ではなかなかの人気アイテムのようだ。私はこれまで3回くらい入札を試みたが全て敗退している。落札価格は回を重ねるごとに上がり続けて現在では三万円以下での落札はまず無理で。次回の出品時には更に上がるだろうと思われる。 気になるアイテムではあるのだが30年落ちの中古品にムキになることもないか、と、負け惜しみも交えてほぞを噛むのだが、次回あわよくば、という考えも捨てきれない。
決定的にまずいこと [再生音楽の聴取環境など]
フォノカートリッジを再度物色 [再生音楽の聴取環境など]
死んだ子の歳を数えるような話をしても仕方がないのだが、結論としては、私のような無精者にはシュアーのほうが向いていたようだ。備忘録っぽく相対比較してみると、
(1)カンチレバーの動作感度や音の解像度ではオーディオテクニカが勝る、これはカンチレバーやスタイラスが極小なため振動系の実効質量が小さいからだろうと考えているが、反面、盤面の汚れ(主にホコリ)には敏感だということでもある。だからLPレコードのクリーニングはシュアーを使っていた頃よりもマメになることを余儀なくされる。実際、レコードクリーナーの交換用ロールの使用量は明らかに増えた。オーディオテクニカはフォノカートリッジのメーカーであると同時にメンテ用のアクセサリーメーカーでもあるので、商売としてはうまくリンクされているな、と、妙に感心したりもする。
(2)万事において使いやすいシュアーだが、そう多くない難点の一つはハムを拾いやすいことだと常々思っていた。以前使っていたUitra500もそうだったがシュアーのカートリッジというのはラインナップの上から下まで全てボディはチープなプレス鋼板なので、周辺機材の(特にアンプ)置き場所に注意が必要だ。対してテクニカAT150MLXのボディはアルミダイキャストでコイルのシールドはかなり厳重な部類に属しているように思える。ある時、システム全体がどこか以前よりも静かだなあと思い少し考えてみて思い当たったのがそれだった。微細な音を良く拾うのは振動系の機械的な感度以外に、こんな事も関係しているのだと思う。
但しこの違いは全体質量に現れていて質量はシュアー6.6gに対してテクニカは8.3gだから約20%ほどの差がある。
オフセットアームであれば何の問題もないのだが、私のようなLTA使いにとってこれは無視出来ない。ボディの質量はカンチレバー側から見た機械負荷なので常々ここでも書く針飛びの起こりやすさに効いてくることになる。
実際のところ、シュアーを使っていた頃には問題なくトレース出来ていたはずのレコード盤がテクニカに変わってからは針飛びを起こしてNGというケースが拙宅ではいくつかある。この半年と少々、折りを見てはアームの設定をちょこまか変えて色々試行錯誤してみたが結局未だ解決には至っていない。
そんなわけでAT150MLXの後釜を思案中の昨今なのだが今時点ではなかなか考えがまとまらないでいる。モノとしてはまだまだ十分使える個体でちょっともったいない気はするが幾らおおざっぱな私でも針飛びにはNGなのでこれからあれこれ思案することになる。
(2)
LD環境が拙宅で衰退していく予感 [再生音楽の聴取環境など]
拙宅にはいくらかのLD(レーザーディスク)が蒐集されている。若い頃には小金があると何度も見返したい映画をLDで買っておくことがあった。
昨日、私はDVDプレイヤーがたったの3ヶ月で変調を来すようになったと書いたが今晩はLDの不調ときた。本体は特におかしな挙動はないのだが賭けるディスクによってトラッキングエラー(と呼んでいいのだろうか?)が起きる。LDに経時劣化が起きるものなのかどうか私にはその知識はないのだがこれまでに不調の起きたものを思い出す限り列記してみる。
どれも記憶に残る、これから先も折りを見て見返したい映画だがもう我が家の手持ちLDではエンディンまでを見通すことができない。残念至極。加えてどの映画もそうだが映像の飛ぶエラーが冒頭部分で現れてくれるのならまだしも、決まって終盤のストーリーが盛り上がる箇所当たりで発生するのはどうしたわけか。
冬になると引っ張り出して観たくなるこの映画ももう駄目だと今晩知った。先に書いた法則めいたものはこの盤についても言えていて、現在私は消化不良気味の気分に捕われている。
考えてみると、CD,LDと非接触のメディアには数年ほったらかしにしておいて久しぶりに再生してみるとエラーの出るものが拙宅には幾らかあるのでDVDにもこの先同じようなことが起きそうな気もする。
そこへいくとLPというのは炎天下に放置しておいて反りが出たとか手を滑らせて落っことして傷がついたとかいった風に因果関係のはっきりした可視的な原因でなければ30年でも40年でも再生できるのだから考えようによっては大した耐久性ではないだろうか。数年ぶりに取り出して再生してみたらいつの間にか駄目になっていたという非接触メディアの壊れ方はどうも不条理な気がして納得いかないものを感じることが多い。
私は出始めの頃のDVDには画質に納得のいかないところがあって高価なのを承知でわざわざLDを買い込んでいたのだが、今になってみて見れば出始めの頃のLDだって画質はひどいものだ。先々折りを見て、LDで見られなくなった映画はDVDなりブルーレイに買い替えていくことになるのだろうがDVDについてはこれまで書いた通りさもしい根性の発露からか安物買いの銭失いを繰り返しており落ち着いて長期間再生できる状況にない。その一方でLDはその性質故にLPレコードのように中古盤を漁る気にはなれず、そうこうしているうちに見られないディスクがこの先だんだん増えていくのだろうから拙宅ので映画鑑賞環境はだんだん混迷の度合いを深めつつある。何とかしなければ。
三千円で買ったDVDプレイヤー [再生音楽の聴取環境など]
昨年始めに安物DVDプレイヤーが壊れて以来、およそ一年近く居間でDVDを見る事が出来ずにいた。一昨年の五月頃に購入したもので安かろう悪かろうを絵に書いたような造りだった。
http://r-shim47.blog.so-net.ne.jp/2007-05-01
実働半年と少々でお陀仏となった。買った値段も五千円くらいだったから修理する気にもなれず取り外してそのまま放り出していた。
さはさりながら居間でDVDが見られないというのは私にとってはなかなかに不便をかこつ事態ではある。テレビの受像機などあってもなくても良いのだがDVDが見られないとかCDが聴けないというのは大いに困る。CDは同じく居間にあるLDプレイヤーで聴いていたがかけかえる度に毎度あのでっかいトレイが『がおー』とか凄い音を立てて開閉するのは余り感じの良いものではない。
問題点が把握できていて、なんとかしなくてはと思いながらもズルズルとやり過ごすのは一生治らない私の性分だが、昨年暮れにはさすがに幾らか小金をせしめてもいたので暇ができると電器店でDVDレコーダーを物色する事があった。私のような者が録画機能を持つ機材を手にするとおよそロクな事には使わないのはこれまでの経験上はっきりしている。ビデオデッキしかり、パソコンしかり、諸兄にはおよそ見当がついていると思うがそういう事だ。
そういう中で歳末のある日、古本漁りにブックオフとハードオフがくっついた店舗の中をブラブラしていたら三千円也のDVDプレイヤーを発見した。
針圧の調整にひとまず区切り [再生音楽の聴取環境など]
たかだかフォノカートリッジの交換だけでネチネチと更新するのも何だか貧乏くさいと思うが貧乏なのは現実である。備忘録風のことを書き留めておく。
懸念していた針飛びが不定期に起こり、ここしばらくの間試行錯誤を続けていた。全くもって悩ましいSLA-3 ではある。
印加針圧による音質変化など夢のまた夢で、針飛びを起こさないようなポイントを探し出すために四苦八苦しているのだから情けない。アームパイプやカウンターウェイトをとっかえひっかえしてああでもないこうでもないと徒手空拳の努力を重ねていた。オフセットアームであればカウンターウェイトをヘリコイドで動かすことになるし針圧の目盛りもついているので簡単に済むのだがこちらはご覧の通り1ポイント固定の直動式で針圧の目盛りもなく、不便なことこの上ない。
SLA-3を買って大変理不尽に思えたことの一つに、本体には針圧を読み取る機能がないのに単体の針圧計が付属されていない。マニュアルには別途針圧計を購入しておくようにとの但し書きがあったので当時私は仕方なしに一個買った。
約20年ほど前には三千円程度で買えたが現在は倍以上する。何とも原始的なシーソー式の針圧計だが壊れるところは一つもないので一個買えば一生ものである。精度については大変疑わしいがこれはもう信じるしかない。針圧を計っている最中にうっかりターンテーブルを動かしてしまってカンチレバーを折ったことがある。私の不注意が全てだが悲しい記憶である。
印加針圧の範囲は1.25gから1.75gとなっていてこの範囲内ではどう設定しても針飛びが治まらなかったのでなかば博打的な気分で1.8gに設定してみた、と言えば聞こえはいいが実際には指先をプルプルと震わせてカウンターウェイトを突っついて微動させたところ、針圧計の指示が1.8gでバランスしたので暫定的にそこで固定したのだった。
0.05gオーバーになるがトレーシングはかなり安定したので結果オーライと割り切った。毎度ながら音質云々を検討する気持ちの余裕など全くない位くたびれる。針圧の調整に費やした時間だけでもうんざりするほどかかっていた。
一体全体どうしてこんなにしんどい目を見ながらでこの厄介者に拘泥しているかと言えばこれまで何度も書いたとおり、時たま起こるとんでもない奇跡が忘れられないからだ。カリカリにチューニングした状態である種のLPを聴くと空恐ろしい位の精密さで虚空に音が実体化する。
マイクと口の距離までもが暴き出されるようなリアルさがある。アカペラではメンバーが弧状にマイクを囲んで唄っている様子が見えない彫刻を並べたようにはっきり現れる。部屋の壁と天井が消失するような錯覚を覚える。苦労の甲斐あってひとまずの上首尾となった。散々手こずり、文句とぼやきを並べながら結局私はこのけったいなトーンアームを手放せないでいる。
お約束のテストソース [再生音楽の聴取環境など]
システムの変更があったときに必ずテストに使うレコード二枚。
音楽聴き人生としてもうかれこれ30数年聴き続けてもいる。針をおろした回数は不明だが、とにかく、何千回聴いても飽きる事がない。再生装置に関心が出てくるきっかけになったレコード二枚でもある。
どちらもエンディングは訳の分からん轟音で締めくくられる。毎度聴き終える度に一体どれくらいのカタルシスを得られたかがセッティングの出来を推し量る物差しになっている。
しっかし、つけもつけたり「いたち野郎」かね。ひどい邦題だなあ。未だにこの邦題のまんまというのも余りいい定着の仕方とは思えない。クリムゾンの「太陽と戦慄」もひどい。日本国内での発売元はワーナーパイオニアであった。こんなひどい邦題を考えた奴は一体誰だ!同じワーナーでもディープ・パープルあたりは毎度結構カッコイイ邦題を頂戴していたのにな。
支離滅裂でまとまりがつかない。私の人生そのままだw とにかく、これら二枚を気持ち良く聴き終えられるステレオが私にとって良い装置と断言。
(追記)30数年前には私の周辺ではクリムゾンもフランク・ザッパも聴いている人などいなかったし名前さえも知られていなかった。ところが最近テレビを見ていてびっくりしたがトヨタ自動車の(車種は忘れたが)テレビCMでEasy Moneyが使われていた。オダギリジョーという人が出ていましたね。世の中変われば変わるものだと思うが あのCFを作った人って結構いい奴じゃないかと思ったりする。Easy Moneyとは「あぶく銭」を意味しているわけだが格差社会に乗じてあぶく銭を儲けた人達がレクサスを買うような構図を想像してしまった。いやあトヨタ自動車、わかってるよねw
LTAとマッチングの良いフォノカートリッジのことを考える [再生音楽の聴取環境など]
連休なので一日中あれこれLPレコードを聴きまくっていた。言い換えると一日中聴きまくっていても疲れないような音調が現在、メインシステムの音調だということでもある。いいことなのかそうでないのか判断はまだ定まっていないがこれまでどこかでそうなりたいと思っていたことは間違いない。
リラックスして聴けるようになった変化は昨日交換したフォノカートリッジに因る。事前に想像していたような変化は確かにあった。そういう想像が付く程度の場数は踏んできたことになるのだろう。 しかし、いざそのような環境に変わってみると以前、シュアーを使っていた頃の音調が懐かしく、回帰したい気分になったりもする。我ながら身勝手も甚だしい。
そういう気分になる理由は一にも二にも今回新調したテクニカのカートリッジ、AT150MLXの音質だ。悪くはない。悪くはないのだが何というか、再生音楽の佇まいが変わった。これは数字や理屈で表しようもないのだがそれまで一人称で直接語りかけてきたものが三人称として誰かの説明を受けている感じ。何というか、音楽そのものが少し、遠のいた感じとでも言おうか。ディティールとかニュアンスはよりきめ細かくなったにもかかわらず、少々他人行儀な有りようとでも言おうか。20年位前、自分で無手勝流に改造したSPUからシュアーのUltra500に変更したときにも同様の感覚はあった。それがより軽く、より遠い方向にずれ込んで再現された感覚というのがさしあたり現在の私の受け止め方だ。
テクニカの製品全般についてこれまで私が抱いていた印象はあながち誤解でもなかったのだが、これは善し悪しと言うよりは好き嫌いの領域だろう。感覚的にしか言い表しようがないのだがもう少しアクティブな表現を期待したい。元々「針飛びの心配がない選定」がトップ・プライオリティだったわけで、こんな腰の引け具合なので余り不平を言えた柄でもないのだが。
それにしても音調については後回しでテクニカのカートリッジを選定したにもかかわらずやはり針飛びが起こるのは意外でもあり、少々落胆したりもした。ことトレーシング性能にかけてはシュアーと同等程度の評価でいたのだがこの機種については少々割り引いておく必要がある。もっとも使用環境が私の所はかなりヘンだからなのであって、オフセットアームに取り付ける分には全く問題ない。 劣る理由として考えつくのが以下の2点。
(1)カンチレバーの挙動を補佐するスタビライザーを持たない。(2)自重はシュアーV15TypeVxMRが6.6gに対してAT150LMXが8.3gであり、20%程度重い。
(1)のダイナミック・スタビライザーについては元々シュアーのボディはお粗末なプレスであり、ハムやノイズを拾いやすいので再生中に静電気を逃がす機能も兼ねている。 従ってケースのシールド性を高めた結果が(2)の重量差だという想像は成り立つと思う。実際シュアーを使っていた頃にはアームに手を触れると軽いハムノイズがスピーカーから出てくることがたまにあったが今回のテクニカだとそのようなことはない。
(2)についてはやはり問題で、どちらもカンチレバーのコンプライアンスについてカタログ上での表記はないが、同一条件でのカンチレバー側から見た応力負荷として考えた場合、20%の差はやはり無視できないはずだ。過去に重ねた失敗から、私はカンチレバーのコンプライアンスと自重の関係については神経質になる傾向がある。
そうすると、オーディオテクニカには他に、もっとトレーシング性能の良さそうな選択肢があったことに気付く。AT33PTG,MCカートリッジである。
こちらの自重は6.8g、シュアーとほぼ同じで標準印加針圧は1.8gなので振動系のコンプライアンスはむしろより堅めに設計されているはずで、私なりの憶測ではLTAとのマッチングはVM型よりも良さそうだ。今回は昇圧手段について考えがまとまらなかったので見送ってしまったのが反省点ということか。それにしても、針飛びで悩むとは我ながらまた何とも情けない次元だ。大体今日日、2万円かそこらで買えるフォノイコライザーまで内蔵したターンテーブルだって余程手入れの悪い盤でもなければ針飛びなど起こすことなどないのに。もっとも、AT150MLXよりもトレーシング性能には期待できそうだとは言っても同じテクニカの製品だからして、そう大きく音調が変わるとも思えない。(私のテクニカ観は常にいつもどこかで醒めたものがあるようだ)おいおい時間をかけて他の候補を物色し続けることにする。
フォノカートリッジの交換 [再生音楽の聴取環境など]
注文していたフォノカートリッジが届いたので引き取りに行ってきた。午後からの外出になったがとんぼ返りで帰宅して交換作業に取りかかる。これまで何度も書いてきたように苦行である。8年間愛用してきたシュアーもこれで見納め。
サウザーLTA3の針交換は難解を極める。一つ一つ挙げつらっていくときりがないくらいややこしい。売れないアームだったので情報量自体が少ない。こんなゲテモノを手なづけたてみたくなるのは余程奇特な御仁だろう。以前輸入されていた頃には輸入元の専従者が幾ら頑張ってもラフなセッティングを出すだけでも一時間強を要したとか。購入当初は私も散々泣かされたのはこれまで何度も書いた通り。
途中の調整過程を写真付きで記録しておこうとも思ったが意味のない自己撞着になってしまうので省略。8年間難儀を避け続けてきたブランクが祟ったのと年のせいで視力が低下してきたため予想通りセッティングは難航した。テクニカのカートリッジは カンチレバーは極細、スタイラスは極小なので降下位置が見づらくシュアーのときより尚更面倒臭い。今回の所要時間は約2時間。途中写真を撮るなどという悠長なことをしている暇はないと自分に言い聞かせ、テンションをあげて取り組みながらこの有様だ。
センターマーカーがないのでキューイングはしづらいのが気がかり。とりあえず2時間後の姿。スタビライザーがないこととシュアーよりも約1グラム強重いカートリッジボディの事を懸念しながら音出しをすると悪い予感は的中して針飛びが発生し、暗澹たる気分に襲われた。三万円強をドブに捨てる結果だったかと落胆しながらタバコを立て続けに二本くらい灰にした後で気を取り直してリトライする。
合計12箇所の調整部分をあちらこちらとチマチマいじりながらどうにかこうにかトレーサビリティに問題ない状態にまで追い込んで時計を見ると午後7時だった。作業開始から実に5時間(!)、ヘッドシェルに取り付けるタイプのユニバーサルアームなら10分もあれば終わっているはずだ。おまけに私のターンテーブル、初期のオラクルはたった1グラムの質量変化に過敏に反応し、サスペンションストロークが狂ってしまったのでこちらのやり直しもあったのでほとほと疲れてしまった。若い頃だったからとはいえ、よくもまあこんな七面倒臭いものを相手に頑張っていたものだと我ながら妙に感心したりもする。(感心してくれる他人などおそらく皆無でしょうな)
オーディオテクニカのカートリッジはどれもチャンネルセパレーションが良い、という事になっている。30dBという数字はおいそれと達成できるものではない。ところが実際に音出しをしてみると以前のシュアーの方が左右方向の広がり感が出ていたのが腑に落ちない。但し左右方向の位置関係はテクニカの方が精密に出る。セパレーションの良さとはこういう側面に効いてくるもののようだ。入力ソースに対する適応範囲はシュアーの方が広かった。概してテクニカのカートリッジはエネルギーバランスで言えばミッドレンジが薄めでハイエンドにちょっとした強調感があるので現代的な録音に対しては効果的な性格付けだと思っている。音の質感としてはシュアーに比べてややきつめだが振動系が高感度なだけにトランジェントは鋭い。必然的に本日の確認用ソースはタイコ系統のものが多くなる。
ついたてスピーカーはこの手のソースに対するダイナミクスは望むべくもないが過渡応答の鋭さはよく出る。怠け者が柄にもなく何時間も根を詰めてあれこれ独り相撲をとり続け、やはり疲れたのか聴いているうちについ居眠りをしてしまいました。
フォノカートリッジを変更 [再生音楽の聴取環境など]
およそ8年、愛用し続けたシュアーの交換針はとうとう最後の一つが寿命を迎えつつあるので機種の変更を余儀なくされることになるのは以前書いたとおり。
あれこれ思案したが懐具合を勘案するとありきたりというか他人様から見れば面白味のない選択肢に落ち着くことになる。メーカーはオーディオテクニカ、機種はAT150MLXをひとまず選択することにして注文を済ませた次第。
http://www.audio-technica.co.jp/products/cartridge/at150mlx.html
幾ら素晴らしい音がしたにせよ、フォノカートリッジは所詮消耗品なので高価な買い物はしないことにしている。そもそも万年金欠なので高価な買い物ができないといったほうがより真実に近い。音響機器はあくまで工業製品であるべきで私は工芸品が欲しいわけではない。
テクニカのフォノカートリッジは若い頃から数度、数機種を使ってきたが余り厚みのない音調に感じられて常用するには至らないことが多かった。しかし歳をとってくると嗜好も幾らか変化してくるようでいわゆる「濃いめの音」ではない方に向かいたくなってきた。上昇志向が失せたせいでトレーシングが安定していてスタイラスが長持ちしさえすれば音調は二の次というのが本音かもしれないw私の環境下で、シュアーと同程度のトレーサビリティがあって安定供給が期待できそうなメーカーというとテクニカ位しか残らないという事情もある。しばらくぶりにMCカートリッジにトライしてみようかとも考えたが、シュアーを常用するようになってから手元にあった幾つかのステップアップトランスやヘッドアンプは全部手放してしまったので今回の選定となった。
これまで何度も書いてきたとおり、トーンアームへの取り付けと調整は難航が予想される。テクニカのカートリッジは何度も書くとおりトレース性能は高いがスタビライザーのないカートリッジは久しぶりなのでもしかしたら針飛び地獄に陥って頭を抱えることになるのではなかろうかという懸念も払拭しきれない。