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Drumのこと(1) [嗜好品(喫煙関係)]

 西部劇などでよく見かける光景に、手巻きの煙草をこしらえる様子がある。紙の上に煙草の葉っぱをひとつまみ置いて広げ、紙の縁にある糊の付いたところを舌の先てツツーッと舐める。それから紙をロール状にクルクルと巻いて一丁上がり。
 
 次にマッチを取り出す。当然ながら黄燐マッチだ。ブーツを履いた片脚を持ち上げて靴底を黄燐マッチで弾くようにして火をつける。それで、たばこに火をつけて一息吸うときには少々しかめつらしい面持ちで目を細め、頬をもごもごさせて一服。
 
 未だにこの仕草、この一連の動作には独りよがりながらかっこよさを感じている。僕にとっての西部劇はガンファイトやロデオや投げ縄よりも、薄汚れた納屋かなんかの軒先に腰掛けた登場人物であるオヤジがこうして煙草をこしらえて一服する仕草である。
 ある時期まで、この手の煙草が市販されているのを知らずにいた。10何年か前に、あるお客さんがこれをやっているのを偶然見かけてそれがオランダ製のドラムという煙草であることを教えて貰い、一袋頂いた。

 パイプの煙草やロール用は大体一袋が50gで販売されているが、貰ったのはDrum mildという銘柄で、半分サイズの25gであった。ご丁寧にロール用の紙が1パック付いてきた。
 ウキウキしながら作ってみようとしたが、端の方から葉っぱがはみ出てきたり出来上がったものを吸っている途中で巻いた紙がばらけたりでなかなかうまくいかず、結構コツを要する。頂いた一袋はたちまち失敗作の山となり、やけになって失敗作を次から次とふかしまくった挙げ句、文字通り煙となって消えた。
 うまく巻けないのが頭に来てドラムを何袋も買ってきた。性懲りもなく失敗作を作り続けて喫煙量は明らかに増えた。うまくできないのでムキになってまた作る、できた先から吸いまくり次の失敗作に取りかかるの繰り返しで絵に描いたような悪循環だった。
 しかしまあ、しつこくトライし続けているうちに何となくそれなりの格好のモノが出来上がり、途中で紙がばらけることもなくなってきた。やればできるじゃねえかとひとり悦に入り、満足の一服をしばらく楽しんだ。
 Drum mildは軽いチョコレート・フレイバーの、なかなか旨い煙草であった。それまで長年吸い続けたホープが少々無粋に思えもした。次に思ったのはこの成果を他人に見せびらかして得意がりたいという何とも次元の低い助平根性であった。

 益体もない願望はそれなりの成果を上げた。酒を飲みに行ってバーのカウンターでこれをやるとネーチャンと少なくとも一つは話の種ができた。仕事の場でこれをやると眉毛を剃ったあんちゃんが刹那的な関心を示したこともある。それらの反応は詰まるところ、「何をしょうもないことをやって得意がっているんだか・・・」という呆れた表情で大きく括られはしていたが、しょうもないはないなりに個性の表れとして受け止められてはいたように覚えている。
 
 僕は一人勝手にいい気になっていたのだが、ある日ある時Drum mildは煙草売り場からぷっつりと姿を消した。デパートの店員である女の子を相手にその時演じた狼狽ぶりは今思い出すと赤面ものだ。いや恥ずかしい。
 それで代用品というか、50g入りのDrumをその時は買って帰った。すっかり上達した手つきで一本巻いて吸ってみると、それまで慣れ親しんだDrum mildとは似ても似つかない不味さに幻滅した。ホープとホープライトの違いが1とすると千か万くらいもかけ離れている全くの別物である。赤貧洗うがごとき貧乏人でなかったら迷わずゴミ箱に叩き込んでやりたくなるくらい僕とは相性が悪かった。
 だが折角買ったものなのだし、そこそこ上達した煙草の巻き方が鈍るのも勿体ない気がしたので義務感に駆られて巻いては吸った。そんな気分で吸うものが旨かったり楽しかったりするわけは勿論なく、やはり煙草というのは嗜好品なのだと当たり前の定義をつくづく噛みしめて煙草を巻くことは止めてしまい、元のホープに戻った。

 その後パソコンを手に入れてネットの世界を徘徊するようになり、何の気なしに煙草のネット販売を眺めていると、何と、Drum mildは名前を変えて復活しているではないか。いや何とも嬉しい、そして懐かしい。僕は早速、調達してみるのだ。


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