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The Lonley One/Bud Powell(ザ・ロンリー・ワン/バド・パウエル) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 1950年代中期以降のバド・パウエルは、明らかに神通力が失せてきた感があり、グランツ・ヴァーブに吹き込まれた諸作には神の座を降りつつある模様が時になんとも無惨な形で記録されている。 
 
 本作はそれら斜陽の時期にあってとりわけ話題性に欠ける。この時期のレコーディングには裏街道のバーチュオーゾだったトリスターノの影響がもろに出た演奏や中には錯乱状態に陥ってソロが中断されてしまうキワモノっぽい記録があったりする。場合によってはお蔵入りしてもおかしくないような代物だが何せ演奏しているのがバド・パウエルともなればそれはそれで楽想のダークサイドを記録した貴重な資料という価値も生まれ得る。

 だが本作にはそういったドラマチックな破綻の瞬間さえない。本当に平板な演奏が続く。
録音時期は1955年の1月と4月で、何とも微妙な時期である。

ザ・ロンリー・ワン

ザ・ロンリー・ワン

  • アーティスト: バド・パウエル, ジョージ・デュヴィヴィエ, パーシー・ヒース, アート・テイラー, ケニー・クラーク
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 1999/06/23
  • メディア: CD

 技巧の冴えという意味では全盛期に劣るものの、演奏内容の安定感では1953年が円熟期と私は見ている。更に技巧は衰えるもののそれなりの安定感を示しながら平易な明快さを聴かせるようになったのが1958年頃として、この間の期間はパウエルのコンディションは上下にジグザグの軌跡を描きながら全体的には下降していくように感じている。

 本作の録音が3ヶ月の期間を置いていることに注意しながら聴いていると4月の録音が特に覇気を欠いている。後年漂わせるようになった哀愁とか破滅の美学のようなものさえない。ただ何となく演奏しているという感じだ。バド・パウエルは良くも悪くもリスナーに深いサムシングを与えるプレイヤーだと私は思っているが、ここでの演奏にはそもそもその辺が希薄であるような感想を私は持っている。
 モダン・ピアノの開祖として陸続たるフォロワーを生み出したパウエルだが、ここではそれらフォロワーが一様に持っている普通っぽさにまで降りてきた感じとでも言うのだろうか。
 言い回しを改めよう、陸続として現れたフォロワー達はおおむね私達と同じような範囲内での感覚世界に生きる人達で、ピアノを演奏する資質に優れていた。そういう人達が練習し、お勉強して習得したバド・パウエルの奏法という括り方はあると思うのだ。本人の持っていた不安定で危なっかしい感じ、意識と肉体のずれを感じさせる流麗とも性急ともきこえる明快さに欠けるキー運び、不揃いなタッチ、唐突な強打に模糊としたピアニシモ等々、本人の演奏には生涯ついて回ったどこかぶっ壊れたような印象が彼らフォロワーには大体ない。
 それらはよく言えば安定感であり、悪く言えば一線を越えることのない物足りなさでもあるのだが、ここでのパウエルは彼らフォロワーと殆ど同じ次元にいるように私にはきこえ、結構特異な感じがする。何となればバド・パウエルの音楽は私にとって、生涯通じて殆ど等身大だったことがないからだ。良くも悪くも現世的でない音楽の代表選手みたいなものだと言ってもいいほどだ。

 生涯を通じて、肉体的、精神的コンディションの如何に関わらず、キーを叩く瞬間の峻厳さをバド・パウエルほど強烈に感じさせてくれるピアニストを私は他に思いつかない。天国と地獄の間を目まぐるしく行ったり来たりするような「あの世界」はここにはなく、どこまでも現世的で安定とも停滞ともつかないような、生涯を通じての表現世界とはちょっと縁遠いところに位置しているようにきこえる。しかし演じているのがバド・パウエルとなれば、それはそれでまた、破綻をきたした表現ではなかったにせよ本作もまた、やはりある種、楽想のダークサイドということになるのだろう。

 随分辛いことを書いた気がするが、本作に聞き所は当然ある。1月の録音は4月に比べてモチベーションの感じられるもので、好調時の手癖も健在。全体にノリがいい。Mediocreではソロの最中、いささか場違いな感じで唐突に両手を存分に駆使した見事なストライド走法を駆使する件がある。勢いに任せて「あらよっと!」という具合で演じられたこの展開は少々はっとさせる。それまでのレコーディングではおくびにも出さなかったクラシカルな奏法を何故、取り出してみようと閃いたのか?そういう表現、そういう展開を生み出すに至った楽想は?内面世界とは?この稀代の天才ピアニストは、それらについて一切語ることなく酒浸りのまま生涯を終えた。私のような凡人どもが言葉として規定することを峻拒し続けながら今もその音世界は妖しく光り輝いている。


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