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Booker Little and His Friends/Booker Little(ブッカー・リトル・アンド・ヒズ・フレンズ/ブッカー・リトル) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 夭逝のトランペッターとして語り継がれていくだろうブッカー・リトルだが、はたしてドルフィーとの双頭バンドでレコーディングされたファイブ・スポットの録音が残されていなかったら今日のリスナー達が与えている評価であったかどうか、私は疑問を持っている。

 但し、全く箸にも棒にもかからない凡庸なトランペッターがたまたま、まぐれ当たりで名演をものにしたと考えているわけではない。私はブッカー・リトルの天分や素養を疑わない。キャリアを辿って聴き続けていると、「ドルフィーと一緒にやっていた人」という切り口からの捉え方だけでは何か一面的な気がする、私の抱いている疑問とはそういったニュアンスを含んだものだと、近頃やっと疑問の内訳が整理されてきたように自覚している。

 ファイブ・スポットの録音に聴かれる情念の爆発みたいな吹奏は確かに多くのリスナーの心に何かを刻み込むだけのインパクトを持っているはずだと思いたい。「栄光の巨人達」の仲間入りが許されるだけの内容がその一夜には間違いなく吐露されていたと私は評価している。
 だがしかし、サッチモからロイ・エルドリッジを経てガレスピー、クリフォード・ブラウンへと連なるジャズ・トランペッターの王道に居並ぶ面々とはどこかが決定的に異なっている。誤解のないように申し添えておくが劣っているとは思わない、異なっているのだ。演奏のスケールとか、プレイヤーとしての力量の問題ではなくミュージシャンとしての佇まいが前出のいわばトランペットの申し子みたいな人達とはどこか異なっている。

 世を去る年のブッカー・リトルは2枚のリーダーアルバムを残していて、どちらもフロントラインに3本の管楽器を配している。そしてこの2枚は、ドルフィーとのバンドの前後に録音されており、共通した感触を持っているところは興味深い。

ブッカー・リトル・アンド・ヒズ・フレンズ

ブッカー・リトル・アンド・ヒズ・フレンズ

  • アーティスト: ブッカー・リトル, レジー・ワークマン, ドナルド・フリードマン, ジュリアン・プリースター, ジョージ・コールマン, ビート・ラ・ロカ
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1996/09/21
  • メディア: CD

本作は61年の8月と9月に録音され、結果としてこれが遺作となった。ファイブ・スポットでの演奏が余りにも強く刷り込まれていた私にとって本作は当初、どこか肩すかしを食わされるような内容に聞こえて、一度聴いたきり20年近くもレコード棚の中で眠り続けることになった。
 最近何かの拍子にたまたま聴いてみると若い頃の私に何が物足りなかったのかがやっと分かった。私は「エモーションの爆発」みたいな展開、手に汗握るスリルを期待していたのだ。残念ながら本作にそういう局面はない。

 曲目の殆どはブッカー・リトルの自作曲である。また、編曲は全て本人が行っていて、ことにホーンアレンジは相当手の込んだ内容である。管楽器の合奏部分が多く、ソロの背景でも他のホーンプレイヤーの音が鳴り続けている場面が多い。つまり本作はフロントラインが順番にソロを繋いでいくブローイングセッションと言うよりも超縮小版のオーケストラ的な響きが支配的だ。

 バンド全体のトーンは、何とも説明しがたい少々奇妙なものだ。3本のホーンによる合奏はモード(これが楽理楽典上、どういう定義を持った奏法なのか未だに私には理解できないのだが)時代のマイルスのバンドともジャズ・メッセンジャーズのものとも違う。ましてやハードバップの勢い任せ、直球勝負的なものでは全くない。低い音域で蠢く不協和音の源流を辿るとエリントンからチャールズ・ミンガスやギル・エバンスに至る手法に通じているように私には聞こえた。
 
 全体の印象を結論めいたものとして先に書いてしまうと、斬新ではあるがやや未消化、ということになるのだろうか。局面によっては考えすぎというかアイディア倒れみたいなところが散見されもする。
 しかしそれでも私にとってはどこか意識に引っかかる。単なるハード・バップでもこの後聴かれるようなモード風でもない、フリーフォームの気配があるわけでもない。一聴、強いインパクトを持たず、何とも型に嵌めようのないこの徒花みたいな音楽に今は僅かな執着を感じている。これは割り切れないものを割り切れないからという理由でどこかに売っちゃってしまいたくはないという私のへそ曲がりな性分に由来しているのだろうが、本当に久しぶりに聴いてみた結果、私はこの、ブッカー・リトルというトランペッターの本領が実は単なるプレイヤーであるだけでなく、作編曲を含めた総合的なミュージシャンとしての姿にあると思うようになったのだった。そういう佇まいのトランペッターは古今を通じて非常に希少であって、私に思い当たる存在の筆頭としてはマイルス・デイビスである。今回、結局私はこれを書きたかったんだな、と、今気づきました。

 その先はどうも、私的トランペッター論みたいなことにまで言及しそうなので長すぎるテキストはこの辺でやめて別の機会に譲ろうと思う。続きとしてこれ

アウト・フロント

アウト・フロント

  • アーティスト: ブッカー・リトル
  • 出版社/メーカー: テイチクエンタテインメント
  • 発売日: 1996/12/16
  • メディア: CD


 を題材にしてこのテーマを続けてみたい。


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