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Miles Ahead/Miles Davis(マイルス・アヘッド/マイルス・デヴィス)その1 [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 私がしばしば引用元として読み返すマイルス・デヴィスの自伝に興味深い件があった。

 1949年頃、ロイヤル・ルーストにレギュラー出演していた前後の頃、デューク・エリントンから自分のバンドに加入しないかと本人から直接オファーがあったが諸般の事情で実現しなかったというものだ。

 語り起こし形式で書かれたこの自伝(とは言え英語力のない私は和訳分を読むだけなのだが)から私は、「音楽の父」から直接誘いを受けたという事実に一楽器奏者として評価された嬉しさを伝えたいらしいニュアンスを読み取った。

 エリントン・オーケストラに加入しなかった理由は本人の語るところでは二つあり、一つは毎晩同じ曲を同じように演奏することに退屈さを予見していたから、というもので、次に、当時取り組んでいたギル・エバンスとの共同作業を継続させたかったからであり、エリントンとの面談時には後者の事情のみを伝えて丁重にお断りしたとのことだ。
 ここで私は一つの仮説を提示したい。それは、この時提示されたポジションが3番とか4番だったのではなかろうかというものだ。つまりソロをとる機会のない、セクションワークのみの立ち位置だったからではなかろうかという想像を私は未だに捨てきれないでいる。

 マイルスの偉大なミュージシャンとしての業績に私は何ら異論を持つ者ではないが、一楽器奏者としての有り様には微妙な翳りをいつも感じてきた。
 勿論、強烈な個性の持ち主であり、傑出したスタイリストであることには疑問がない。しかしあのトーン、あのプレイスタイルというのはキング・オリバーからサッチモ、ロイ・エルドリッジからガレスピーへと受け継がれた血脈からは少し外れた場所に位置づけられるものであって、モダン以降の正統的後継者はガレスピーからファッツ・ナバロ、クリフォード・ブラウンへと引き継がれていくもののように私は考えている。

 乱暴な定義めいたものを書きとばすとそれは、場の力関係を一気に支配する号砲一発を持っているか否かにあると思う。列記した彼ら、言ってみれば嫡流にあってマイルスにはないものがそれだと思う。
 デビュー直後、グリーンボーイだった頃のクリフォード・ブラウンはライオネル・ハンプトンにスカウトされるやいきなり一番ラッパの席を与えられた。これはハンプの眼力を示す出来事ではあるが同時にトランペットという楽器が天性の資質によってプレイヤーの立ち位置をある程度限定してしまう性格を表しているとも言えまいか。

 マイルスのレコーディングキャリアを追っていて気づくのは、ジャム・セッションの録音歴がほんの僅かしかないことだ。トランペット・バトルみたいなフォーマットの吹き込みは私の知る限り確か一回きりではなかっただろうか。
 チャーリー・パーカーというアドリブの権化と同じステージに立ち続け、ガレスピーという王道トランペッターを目の当たりにし続けたことから生み出されたエコーは自伝中やその他のインタビューでも時にストレートに、或いは屈折した形で色々に語られている。
 結局、トランペッターとしてのマイルス・デヴィスは『ガレスピーみたいに演奏したいけど自分にはできない』というのがスタートラインだったらしいことは自伝中で語られている。それぞれ自分に合った演奏スタイルを見つければいいのだとガレスピーに諭されたことがあるらしく、プレイヤーとしてのガレスピーに対する敬意が随所に現れるあたりを私は興味深く読んだ。マイルスという人は意外と先輩を立てるんだなあ、と私は読んだわけだ。

 但し、先輩諸兄がステージで見せる道化めいたアクションは心底毛嫌いしていたようで、これは元々中西部の中流家庭が出自であるためだろう。マイルス・デヴィスは終生、商業音楽と芸術性との両立に無意識なままその境界線をまたぎ続けていたような立ち位置にあると私は見ているが、芸術として評価され、商業的にも成功し、大衆的な人気と同時に芸術家としての尊敬も得ることの困難さには余り意識的でなかったフシがある。

 機会を改めてテキストを起こそうと思うがThe Birth of the Coolという最初のリーダーアルバムはガレスピー風ではない演奏スタイルを身につけつつあり、アドリブ一辺倒ではない音楽を目指したという意味で音楽家マイルスにとってはやはり思い出深い記録であろう。

クールの誕生

クールの誕生

  • アーティスト: マイルス・デイヴィス, J.J.ジョンソン, カイ・ウィンディング, リー・コニッツ, ジェリー・マリガン, アル・ヘイグ, ネルソン・ボイド
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2006/06/14
  • メディア: CD


 音楽として楽しめる内容であるかどうかは別として、意識的な音楽家としての出発点だったことは違いない。(この項続く)


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