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C56 Dorian 用のスタンド(JBL S-101のこと) [再生音楽の聴取環境など]

 私の住む土地はついこの間まで、連日日中気温が一桁程度にしか上がらず例年にまして寒い春だった。ここ数日でだんだん春の陽気らしくなってきたと思ったらもう5月も末だ。 暖かくなってくるとレコードを聴くのは居間のサブシステムである機会が増えるのも例年通り。

4274391.jpg毎度の使い回し画像です。

 メインのツイタテスピーカーにしたところで今日の感覚で言えばきっともう最先端の再生音ではないのだろうがそれにしても冬の間ずっとESLの音に馴染んだ状態でJBL S-101を聴くと凄く旧い音に感じられる。旧い音には旧いなりの美学めいたものもあるので善し悪しは別として、このスピーカーのオリジンであるL-101 LancerだったりそのキャビネットだったC56 Dorianというのはいろんな意味で、良くも悪くも成金趣味黄金時代のアメリカを体現していたと思う。

 C-56はJBLが用意していたうちでは最も小型のフロアースピーカーキャビネットだった。組込用に想定されていたウーファーサイズは12インチと14インチの2種類で前者の場合は123A,後者の場合はプラスターコーンのLE-14となり、キャビネットの外寸や仕様は一緒だがウーファー取り付け用の穴が12インチ用と14インチ用の2種類のうち購入時にどちらかを選択することになっていた。

 購入前にどういうユニット構成にするかで3種類くらいのバリエーションがあったはずだが後年JBLがキャビネットの単売をやめてからはそのうちの一種類であるC-56にLE-14と高音ユニットのLE-175DLH,ネットワークはN-1200の004システムを組み込んだもののみが完成品スピーカーL-101  Lancerとしてカタログに残された。

 ドリアンキャビネットには昔も今も変わらないかっこよさを私は感じている。手の込んだ格子グリルは音的にいいことなど一つもないし、マーブルトップにも装飾的な意味合い以上のものはない。今日的な感覚で言えばスピーカーの箱をこうも装飾的な外見に仕上げる必然性などどこにもない。加えてこの箱は、特にLE-14をマウントした状態だといい音がしない。

 JBLは必要以上に大きなウーファーを押し込んだ失敗作を時折リリースする悪癖が今も直らない。箱の中の空気容量が足りずにオーバーダンピングや分割振動が起こりやすいものが中にはある。C-56について言えばウーファーはフロントバッフルの下端にマウントされているので床に直置きすると低音がかぶって尚更ひどい音がする。人によっては上手に使いこなすのだろうが私は今まで数カ所で聴いた限り、L-101に聞き惚れた記憶がない。こんなにかっこいい箱なのにと思うと少々残念だが箱のかっこよさに入れ上げて何とかいい音を引き出したいと努力するオーディオファイルの心情には共感するところがある。容姿端麗ながらヒステリー持ちの女性みたいな困ったスピーカーだと思っている。

 拙宅のS-101はレプリカモデルで、ウーファーサイズは12インチに落とされているためオリジンのL-101よりも取り回しは幾らか楽だが欠点の根本的な改善がされているわけではない。ドリアンキャビネットについてはしばしば言われることだが床から30センチ以上かさ上げして置けば低音域のレスポンスはかなり改善されるのがはっきりしている。にわか作りの置き台で試したことがあって確かに音質は良くなったが見てくれが良くない。元来音の出るオブジェとか調度品風の佇まいが欲しかったので音質は二の次で元に戻した。ここしばらくの私は、何が何でも万策を尽くしてスピーカーのポテンシャルを全て引き出すのが必ずしもいいことだとは限らないと思うようになってきている。何事によらず、突き詰められたシステムというのは良くも悪くも敏感なもので、使用する人にもある種の覚悟を求めるように思える。いい加減人生に疲労感を覚えるようになってきたここ数年の私はシリアス一辺倒だけが音楽との関わり方ではないことにそろそろ気付き始めている。突き詰め方は七合目程度だが出音がどうあれ眺めていて楽しいのだからそれでいいんだと割り切っている。

 だが見てくれと出音が両立すればそれに越したことはないのだがという少々虫のいい願望がいつもどこかに微かにある。そのうち小金を貯めて建具屋に格子柄のグリルをはめ込んだ置き台を作ってもらおうかなどという戯けた想像に浸ったことが実はある。なんだかんだ言ってこの趣味はその手の妄想に浸っている時間が一番楽しいのだ。そんな折、Yahoo!!オークションで専用置き台というのを見つけた。

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ドリアンキャビネットの優美さを十分に尊重したとは思えないが、とりあえず美観を損なわないように配慮したらしい意図は伺える。なにより音質に配慮した製品であるらしい。「バックロードスタンド」と銘打っている。ここで私はその名称にどうしても疑問を抱かざるを得ない。パラゴンの後期モデルは例外として、LEシリーズのウーファーはホーンロードをかけて使う想定はされていないはずなのだ。一体どんな仕掛けなのかと訝りながら断面図を眺めて私は脱力した。これはちょっと、冗談がきつい。

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 ドリアンキャビネットの底板をどう処理するのかが疑問だったのだが何のことはない、単に台に乗っかっているだけなのである。強いてこじつければ底板のレゾナンスが震動源で、これをバックロード板と名付けたスロープで前面に導くというアイデアらしい。同時期の他メーカーに比べてJBLの箱はかなり剛性の高い作りだったと思うのでここに提示されている案はほぼ間違いなく大した効果を生まない。

 このスタンドはそれなりの金額提示がされている。私には悪い冗談だとしか思えないが取り組んでみたくなるオーナー氏があるいは幾らかいるのかもしれない。しかしバックロードの効果が実に胡散臭いことを抜きにしてもやはりこの佇まいは無粋ではあるまいか。屈折した満足感ではあるのだが、ドリアンキャビネットは居間や応接間にオブジェとして鎮座していて時たま訪れる来客の目にとまったときに「いやあ、かっこいいスピーカーですねえ、JBLですか」とお世辞を言ってもらい、続いて思わせぶりに格子グリルを外してこのサイズのスピーカーにしてはやけに金のかかったスピーカーユニットをひけらかす(S-101はオリジンのL-101に’比べるとちょっと寂しいが)。最後に持ち主が「床に直起きするとあんまりいい音がしないんだけど、台に乗せると見栄えがねえ・・」と、謙遜ともぼやきともつかないような蘊蓄を披露するところが真骨頂である存在だと私は浅知恵で決めつけている。

 


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