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Virgin Beauty/Ornette Coleman(バージン・ビューティ/オーネット・コールマン) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 別段自慢にもならないが、初めてオーネット・コールマンを聴いたときには意外なくらいすんなりと受け入れることが出来た。貧乏学生でロクにレコードも買えない頃のことでジャズのことと言えば活字の印刷物を読むことでしか知識を仕入れることが出来なかったのだが、商業雑誌のライター達は自分が最初に聞いた頃の印象をそのまま保存し続けるものなのだろうか。初めて聴いたのは釧路の喫茶店で、『なんか、かっこいいじゃねえの」と聴き入っていて後になってからそれがオーネット・コールマンだと知って拍子抜けした記憶がある。

 

ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン+3

ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン+3

  • アーティスト: オーネット・コールマン,デヴィッド・アイゼンソン,チャールズ・モフェット
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2007/11/21
  • メディア: CD

 

 

 

 

 疑いもなく良質な音楽だと今でも思っているが、当時雑誌を読みかじりの予備知識では一体どれほど摩訶不思議というかハチャメチャな音楽なのかと想像を逞しくしていたので、実際に音楽に接してみるといい意味で拍子抜けしたのだった。リアルタイムで接していればまた別の感想が出てくるのだろうが、凄くまともに聞こえたということは、既に当時私は結構ヘンな音楽に馴染んでいたからなのだろうか。

 1970年代末期というのは、没後10年以上経ってもコルトレーン信仰みたいな風潮が根強かった。およそサックス・プレイヤーは「あのスタイル」で吹けば物真似だと酷評され、『あのスタイル』以外で吹けば時代送れだのキワモノだのと酷評され、要するにコルトレーンでない人達は何をどうやっても『あのスタイル』を絶対基準として減点法に晒された。気の毒な話だ。

 これは民族性なのだろうが、凡庸な資質の持ち主が精進に精進を重ねて一角の人物になり仰せる人生模様が好まれる傾向は確かにある。人の生き方とは全てそうあるべきだ、と。ジョン・コルトレーンというミュージシャンの軌跡はまさにそのものズバリである。しかし私のような者は第一に音楽が聴きたいのであって特段そこから人生訓を得たいわけではない。音楽の狭間に生活時間のかけらや人生模様の断片が時折垣間見られる瞬間は確かに面白いがそれはあくまで副次的な楽しみであって第一義ではない。人生論や精神修養を求めるのなら本を読んだり誰かの講演でも聞きに行けばいいのであって音楽としてはつまらないが精神論としては素晴らしいなどというのは本末転倒である。コルトレーンの音楽がみんなそうだとは言いませんけどね。

 オーネット・コールマンはそれとはまるで対極に位置している。ビッグバンドの末席から身を起こし、やがてマイルスのサイドメンとなって後に一本立ちし一家を成して多くのフォロワーを生み出したコルトレーンは全く世間好みのするストーリーの持ち主で、ある種インナーサークルの優等生であるのに対してオーネット・コールマンはある日出し抜けに現れてそのままインナーサークルに居候を決め込んでしまった闖入者であるかのような否定的論調は今でも結構根強いのではないだろうか。私個人は、それはそれで人生物語としては痛快で面白いじゃないか、などと不届きなことを考える輩なのだが。

 初期から聞き続けていて意外なことに気付いたが、オーネットのプレイスタイルは昔から大して進歩がない。良くも悪くも変わっていない。音楽の外皮は時代時代で変化し続けていくがプレイヤーとしてのオーネットには初期から殆ど同じようなソロをとり続けているのである。そしてこれは私の主観というか、単なる印象だけなのだがその吹奏は一貫してちょっと突飛な感じ、ぶっ壊れかかった感じがして、少々胡散臭くもあるが奇妙に開放的でヘンにかっこいい。コルトレーンの音楽は臨界点に向かって凝縮していくようなベクトルを持つがオーネットの音楽は与太っぽいムードを発散しながら拡散していく。実は今の私はそっちのほうが好きである。

 しつこくアナロジーを続けたい。コルトレーンとオーネットでは時間の経過に伴う変容が決定的に異なる。コルトレーンのそれは『進化』であり、オーネットのは『変化』だと思っている。例えば同じ魚の行商人から始まって10数年後、コルトレーンは苦学して夜間大学に通い、立派な会社経営者になり仰せたのに対してオーネットは10数年前と変わらない同じ口上で今度は野菜の行商人をしているといった違いではないだろうか。そしてこれは単純に優劣の問題として語られるべきではない。立身出世は結構だが行商人をやり通すことだって十分立派じゃないかと今の私は考える口だ。

 20代後半のある時期からしばらくの間、私はジャズから遠ざかっていて、しばらく時間が経ってからこのCDを見かけて何の気なしに買ってみた。「まだやってんのかよ、今度は何を始めたの?」という冷やかし半分のご祝儀みたいな、オーネット・コールンというミュージシャンとの関わり方はそういうのが しっくり来そうに思っている。

ヴァージン・ビューティー

ヴァージン・ビューティー

  • アーティスト: オーネット・コールマン,デナード・コールマン,カルヴィン・ウェストン,アル・マクドウェル,ジェリー・ガルシア,バーン・ニックス,チャーリー・エレーブ,クリス・ウォーカー
  • 出版社/メーカー: エピックレコードジャパン
  • 発売日: 1998/02/21
  • メディア: CD

 

 

 

 どこからどこまでが計算尽くで、どこからどこまでが行き当たりばったりの思いつきなのか判然としないのだが兎に角誰にも似ていないこの人だけの世界がある。オーネット・コールマンの諸作中にはアイデアの煮詰め方の足りなさが感じられるものも中にはあるが本作は大当たり。律儀なスタイルの実力者をボトムに配して自分は多少のテキトーさを覗かせながらあっちへヒラヒラこっちへフラフラと好き勝手に飛び回るのがオーネットの成功パターンだが本作では見事にはまっている。自分のソロスペースは抑え気味にしてリズムセクションをクローズアップさせた構図は大変わかりやすく、リフを主体にした短めの曲作りは取っつきやすい。そして何よりもかっこいい。ヘンだがかっこいい。何かオーネットという人はそういう立ち位置がサマになるように思うのは私だけだろうか。

 ここで私もなんだか人生観みたいなことを垂れ流してしまっているようで、なんだかこっぱずかしい気分なのだけれど、冗談なんだか本気なんだかわからんようなトランペットのトーンにちょっと揺り動かされるものがあったり、全編通じてのリズムのハネ具合が生理的に気持ちよかったりで気付いてみると長年随分繰り返し聴き続けた。いつの間にかオーネットも来日して勲章をもらったりして世間的な意味での大家になってしまったようで少々イメージが噛み合わない、私はこの人の本質はいつも「客寄せの巧い山っ気たっぷりだが愛すべき露天商」だと思っている。それはそれで結構惹かれるもののあるキャラなんですよ、すれっからしの私には。

 

 

 


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