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The summer knows/Art Farmer(思い出の夏/アート・ファーマー) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 愛聴盤というのは、歴史を揺るがすような傑作でも何でもない、小粒なものであることが案外多そうな気がする。歳をとればとるほどそういう傾向が強まりそうにも思う。
ついでに言えば、必ずしも歴史のその名をとどめる巨人ではない人達であることも同様である。
 
 本作のライナーによれば、アート・ファーマーという人は実生活に於いて今ひとつ押しの弱い人だったのだそうだ。そういう人柄はプレイにも反映されるものなのかどうかは不明だが、確かにこの人のレコーディングキャリアにあって火を噴くようなブローというのは記憶にない。
 私がしばしば引用するマイルス・デイビスの自伝によれば困窮生活を送っていた頃のマイルスは、しばしば自分のトランペットを質入れしなければならなかった。しかし、トランペットがなければ収入も途絶えるわけで、稼ぐ必要に迫られたマイルスはそのたんびにアート・ファーマーのラッパを拝借し、何日も借りっぱなしのことさえしょっちゅうあったのだそうだ。
 マイルスという人は生涯を通じてその私生活は支離滅裂だが、よりによって自分の商売道具であり生活の糧でもある楽器をいいように利用されたアート・ファーマーもちょっとお人好しな感じもする。外見上は強面というか、おっかない感じのする風貌だが人は見かけによらないものだ。

 アート・ファーマーのレコードは大体どれを買っても大はずれはない。野球で言えば打順は2番とか6番のアベレージヒッターで守備のポジションはセカンドとかショートみたいな感じだ。

おもいでの夏

おもいでの夏

  • アーティスト: アート・ファーマー, シダー・ウォルトン, サム・ジョーンズ, ビリー・ヒギンズ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2006/06/21
  • メディア: CD


 佳作である。日本のレコード会社がアメリカまで出かけて制作する動きは70年代半ばから始まったと思うが、その初期に当たるものだ。
 後年、日本の制作陣はプレイヤーに童謡を演奏させてみたり、ありきたりなスタンダードナンバーばっかりのいかにも初心者入門用的というか、バーのBGM目的みたいなくだらない企画を連発するようになったが、この時点ではまだ厚かましい旦那趣味はさほど露骨ではなく、プレイヤーに対するリスペクトが感じられるところは好ましい。
 一曲目はミッシェル・ルグランの有名な曲だが通常ジャズとして演奏されることはない。日本での話題作りのためのリクエストだった。アート・ファーマーは録音の前日までこの曲を知らなかったのだそうだが、たった一晩でモノにしてしまったミュージシャンシップはやはりたいしたものだ。
 全曲を通じてバカラックのポップチューンあり、スタンダードナンバーのバラッドありで大変聴きやすいが演奏は決して安手ではない。リズムセクションのまとまりは抜群で楽器の特性もあってソフトな吹奏を殊更煽り立てることはしない。

 全編通してのイメージは夏の終わり、夕暮れのサンデッキで物思いにふける感じか。しばしば書くが、これもまた名録音である。ビリー・ヒギンズの軽量戦闘機みたいなきびきびとしたドラミング、ことにブラッシュワークを傾聴して頂きたい。もうひとつがサム・ジョーンズのベース。過剰なくらいブーミングを効かせたベースラインの音程がしっかり把握できるようであればその再生装置は評価に値する。


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