SSブログ

Ryan's Daughter/(ライアンの娘:監督 デビッド・リーン) [映画のこと(レビュー紛いの文章)]

 もう何度目かの繰り返しになるが、何故か周期的に観たくなる映画である。
デビッド・リーンは問答無用の巨匠であって、「アラビアのロレンス」や「ドクトル・ジバゴ」といい本作といい、何度見てもその都度発見がある。
 更にこれら諸作は極めつけの映像美が堪能できる。殊に自然風景の鮮烈さはまさに一幅の絵画にも匹敵し、思わず息を呑むこと請け合いだ。こういう映画を見てしまうと昨今大流行のCGなど所詮小手先、ガキの遊びにしか思えない。
 砂漠、雪原、そして本作では海だ。海と言っても南洋の極彩色で開放的な海ではなく、陰鬱な曇天の下で凶暴にのたうつ峻厳で荒々しい北の海である。
 時代と場所は第一次大戦前後、独立闘争真っ盛りのアイルランド、武装蜂起が迫る中での教師の妻と駐留英軍将校との不倫という重層的ストーリーで、異国人同士の憎悪、寂れた漁村民のささくれだった群集心理、奔放にして秘密めいた不倫の高揚感など、登場人物の様々な情念が絡まり合いながら、まるで劇中の激しく押し寄せる波のように観客に迫ってくる。

ライアンの娘 特別版

ライアンの娘 特別版

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2006/05/12
  • メディア: DVD


 私個人の意見としては、この映画は是非、女性に観て頂きたい。多面性を持った作品ではあるけれど、最高級のメロドラマたり得ている。ヒロインは勿論だが、彼女を取り巻く男性達にこそ注目して頂きたいのだ。夫、不倫相手、牧師、父などに良くも悪くも男性の男性なるが故の属性が如実に活写されていることに気づくはずだ。
 まあ、重厚長大作品の嚆矢とも言えるだけに私の拙い文章でああだこうだ書くよりもまずは観て頂きたい。3時間を超える大作だが購った時間以上の内容は間違いなく保証できる。
 話が戻ってしまうが、本作はなるべく、大きな画面で見て頂きたい。自然風景描写の雄大さは30インチかそこらの画面では到底その有難味を享受できまい。拙宅は120インチのロールスクリーンで観ているがそれでもまだ足りない。理想を言えばリバイバル上映される映画館のスクリーンで観てこそ真価を発揮する映像世界であって、見所はそれこそ枚挙にいとまがないほどだ。

(付記1)デビッド・リーンはしばしば政治的、歴史的な題材を背景としてドラマ作りを行ったが、それら作中では母国である英国を決して肯定的には描かない。であるにも拘わらず、彼にサーの称号を与えた英国という国の見識に私は一定の敬意を持っている。何でもかんでも批判的でありさえすればいいとは思わないが、民族意識を高揚させる効果と作品としての偉大さは切り分けて評価すべきだろう。

(付記2)作中、ぐさりと来るような名セリフがあったので書き留めておきたい。
ヒロインの不倫を察した牧師が発する警告である。
「夢を見るのはいい、しかし育てるな。夢の中で育つ男は酔っぱらいよりも始末が悪い。いずれおまえを滅ぼすぞ」


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:映画

nice! 1

コメント 2

Hiji-kata

映画の冒頭、風に翻弄されて舞う可憐なパラソルが
この後の彼女の運命を暗示していて見事でした。
by Hiji-kata (2007-01-23 13:11) 

shim47

コメント有り難うございました。仰るとおり、非常に印象的な導入部でした。
後のハリウッド映画「フォレスト・ガンプ」の導入部などは案外、本作へのオマージュでもあるのだろうかと、明らかに身びいきな見方を私はついついしてしまいます。
by shim47 (2007-01-27 01:34) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。