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Rhythm Willie/Herb Ellis,Freddie Green(リズム・ウィリー/ハーブ・エリス、フレディ・グリーン) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 先日、田野城寿男さんのライブに出かけてギターの西村嘉洋さんを間近で観る幸運にありついた私は、その後脈絡もなくあれこれ考えた。

 思い出してみると、西村嘉洋さんのソロの場面は意外と多くなかった。であるにも拘わらずそのプレイは前回の芽室でのライブと同じく強い印象を与えてくれた。
 ここで私は、良く出入りしていた中古レコードショップのオーナー(現在は楽器店で、このオーナーさんは以前はプロのベースマンでした)が言っていたことを不意に思い出した。それはどういうことかというと、ソロとバッキングはそれぞれ別の難しさがあるのであってソロをとる機会が多いからその人がサイドメンよりも上手だとは限らないといった内容だった。

 決してソロをとらないギタリストとして私が連想するのはフレディ・グリーンFreddie Greenである。
私は若い頃、粟村政昭氏のジャズ・レコード・ブックJazz Record Bookをお買い物の指標としていた一時期があった。そこでの評価のされ方は尋常でなく、氏が言うところの三大ジャズ・ギタリストとはフレディ・グリーン、チャーリー・クリスチャン、タル・ファーロウというものだったが、当時の私にはその評価理由がさっぱり理解できなかった。
 そもそも、ロック小僧だった時間をくぐり抜けてジャズを聴き始めるようになった私にとって、ギターは大して興味を惹かれない楽器だった。当時の私にとってジャズで聴きたい楽器は何を置いてもまず第一にホーンであって、チョーキングも派手なエフェクターの駆使もないジャズ・ギターというのは何だかひどく地味で退屈な存在に聞こえた。ソロをとらずにコードカッティングに徹する演奏スタイルとなると尚更だった。だから前記の三人について当時、私はあとの二人はともかくどうしてフレディ・グリーンがそれほど偉大視されるのかがさっぱり理解できなかった。

 そういう疑問が幾らか氷解したのは学生の時分、カウント・ベイシー・オーケストラをナマで観た時だった。
今にして思えば、御大もフレディ・グリーンも存命中に見ることができたのは本当にいいことだった。当時の私は専らデューク・エリントンに入れ上げていた。楽曲の構成や多彩さ単純比較するなら私は断然エリントンに軍配を上げる。これは今も変わらない。カウント・ベイシーの方は一聴しただけだとどれも似たり寄ったりの曲調だったりバンドアレンジにしても『ここがこうだったらもっといいのに』と思わせるところがあって何かまだ評価すべき余地がどこかにありそうには思うもののそれが何なのかがうまく見いだせずにいたのが当時の私だった。

 先に書いた某楽器店のオーナーはある時、ベースの役割について『タイムキープしつつ、コードを全員に伝えること』と説明してくれた。今考えるとそれは大変簡潔にして勘所を押さえたコメントだったと思う。
 それで、実際にステージを観てみてフレディ・グリーンの役割はというと、ベースとメロディ楽器の仲立ちをする存在というのが私なりの理解の仕方である。ビートの厚み、躍動感がカウント・ベイシー・オーケストラの美点であってこれはどの時期のエリントンのバンドをも確実に凌駕する。
 ドライブ感とかグルーブ感というのは何とも生理的な表現で、私にはそれらをもっと掘り下げて説明する能力がないのだが、何か本能的な快楽に直結しているらしいというあたりまではこの、いささか頭でっかちな音楽愛好家である私にも理解できたのがその日のステージだった。そしてその日の私の生理的な高揚感は、実のところフレディ・グリーンによって担保されていたことを終演後に深く実感していたのだった。
 以来、フレディ・グリーンは私にとって何か特別なギタリストとなった。本物を観たせいもあるのだろうがステージ上での飄々とした身振りは実にかっこよかったです。

 ベイシー・オーケストラ以外でのレコーディングはさほど多くないが、レコードのメンバークレジットにフレディ・グリーンの名前を見つけると飛びつくようになったのがそれ以後、私に宿った習慣だ。生理的な快感をもたらすビートという点に於いてフレディ・グリーンの演奏にはどれもハズレがない。
 但しスモールコンボに於ける演奏とは言ってもそれらには必ずといって良いほどホーン・プレーヤーが参加していて、それが本来的なポジションであることは重々承知の上であっても何かもっと、ギタリストとしての存在がクローズアップされる編成での演奏はないものかとあれこれ物色しているうちに見つけたのが本作だった。レコードタイトルはまさに、本作で聴かれる美点をど真ん中で言い表している。
 

リズム・ウィリー

リズム・ウィリー

  • アーティスト: ハーブ・エリス,フレディ・グリーン,レイ・ブラウン,ロス・トンプキンス,ジェイク・ハナ
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2000/06/07
  • メディア: CD

 コーニイというか少々漫画チックではあるけれど、ジャケットデザインが本作の全体的ムードを実にうまく表していると思う。私はこのジャケットを眺めているだけであのコードカッティングが頭の中で鳴り始める。
参加メンバーは申し分がない。特にレイ・ブラウンが加わっているだけでももう、本作の快適さは保証されたようなものだ。本来主役であるはずのハーブ・エリスは安定感抜群のグルーヴィなリズム・セクションに乗っかり、全編軽妙なメロディストであることに専念する。全編これ、底力を秘めた大人が肩の力を抜いての日常会話的風情で丁々発止のやりとりが無条件に楽しい。ベスト・トラックはチャーリー・クリスチャンに由来するA Smooth Oneで、メンバー全員、この日は何かいいことでもあったんじゃないかと思うくらいハッピーな空気が横溢している。
 晩年のフレディ・グリーンを起用してホーン抜きの本作を企画したというこの一点だけでも、私はこの、コンコードというレーベルは評価に値すると思っている。私の頭の中では聴いていて無条件に楽しく体が揺れ出す音楽として本作はかなり上位にランクされている。大して話題にはならず、恐らく売れもしなかったであろう本作だが、自分の生理や本能と直結して内部を明るくしてくれるこのような音楽がそんな中から見つかったりすると、雑誌のレコードレビューというのも案外、当てにならないものだと思ったりもする。

 CDで買い直しておきたいほど私は本作が気に入っているが、現在は中古盤を探すほかに調達方法はなさそうで再度リリースされそうな気配もないのが大変惜しい。


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