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留年がもたらす心の傷について [身辺雑記]

 前のエントリーで学生時分のことを書き殴ったのだが自分の過去をまとめておきたくて補足。

 私は元々学校の勉強が好きでなく、大学に行けるほど上等な頭の持ち主でないことは中学生の頃から分かり切っていた。 加えて私は自分の住んでいる土地が嫌いで家族とも折り合いが悪かったので義務教育が済んだらさっさと家を出てどこか遠くへ行きたかった。

 進学したのは高専という変な学校だった。今考えても変だったと思う。文系、理系を問わず勉強はどれも嫌いだったので志望の動機は実に希薄だった。ただ単に合格できるかもしれないというだけの理由で受験し、合格の内定をもらってからは普通科の公立高校を受験するのが面倒臭くなったのでそのまま入学を決めただけに過ぎなかった。志望は電気工学科ということにしていたがこれにも特に理由がない。何故そういう学科を志望したのか今となってはさっぱり思い出せない。

 入学の内定をもらってから形ばかりの面接があった。日程は公立高校の受験日一日目にぶつけてくる。両天秤をかけられるのを嫌っているのだということは中学生の私にも理解できた。面接時に教官から何故本校を志望したかと尋ねられ、馬鹿正直に今から公立高校を受験するのが面倒臭いからですと答えると教官の目つきは鋭くなってそういう心構えでは君は後々苦労することになるかもしれないと言われた。

 今から考えればあの程度の学校にさえ合格できたのが何かの間違いだったのだろう、元々も出来の悪い頭の持ち主なのでたちどころにボロが出た。目先の小金欲しさにバイトにばかり精を出して学校には寝に行くか遊園地に遊びに行くような腹づもりになっていたので試験は毎度惨憺たる出来で留年した。しかも2回だ。一回ならば不運とかもう一頑張りとか言えなくもないのだろうが2回もやらかすようでは本当に入学できたのが間違いだったとしか言いようがない。

  文部省(当時)の定めるところによれば高専という学校の在学期間には最長7年であり、同一学年は3回以上できないという決まりがある。ついでに進級は単位制ではなく学年制で一つでも基準に満たない単位があれば即留年というものだ。進級できなければ留年した年度に取得した単位は全て無効になる。留年してもう一度同じ学年の履修を始めることを学校の中では誰が言うともなく「裏」と呼んだ。「裏」の学年では単位の取得は最初からやり直しである。いいんだか悪いんだかわからないがあまり寛容さのない制度だ。弁解するわけではないが実際私のほかにも中途退学したり留年する学生は多かった。

 私は「裏」を2回やらかしたので、ある学年から先は文字通りのカド番を続けた。5年制の学校を7年かかって卒業できたので文部省の定める許容範囲を目一杯使い果たしたことになる。だからこのブログで私はしばしば以前の自分を開校以来のボンクラ学生と自称しているがあれは謙遜でもなんでもなく真実である。

 今でもときたま思うことだが、一体何故私のような低脳児が卒業できたのだろうか。卒業間際の最終学年にあって私は再試に引っかかり暗い気分で過ごした。5年にプラス2年の猶予期間を使い果たし、バカはバカなりに就職先が内定しての再試である。既に住んでいた寮からは荷物を引き払い、実家に戻って就職先で働くための段取りをしながら再試の勉強をするのはなんだか凄く奇妙な気分だったしやる気も起きなかった。

 再試でこけたら就職もパーになるのだろうとか、その先どこかの学校に入学し直す気にもなれなかったので一生中退者として過ごしていくのだろうかとか陰気な妄想にとりつかれて数日を過ごした。

 結局、再試のために一日学校に赴き、何とか単位は取れて卒業とは相成ったが今考えてもなんだか後味が良くない。きっと担当教官はボンクラはボンクラなりにある日向学心に目覚めて努力はしたのだし、就職先も何とか内定できたので、ここで人生を台無しにするような判定を下して後々恨みを買うようなことはすまい、という温情をかけてくださったのではないかと今でも思う。

 経緯がどうあれ卒業してしまえばこっちのものだ、と割り切れればよいのだがあの時間、毎年毎年学年末の再試の時期に果たして進級できるのだろうかとか荷物をまとめて退学して田舎に帰らなければならないのだろうかとかこんなことなら普段もっと勉強しておけば良かったという不安やら緊張やら後悔やらが充満したビリビリするような時間は確実にその後の私に暗い影を落としている。

 白状してしまうと、卒業後の私は不定期的にある悪い夢に悩まされている。特に3月に多い。どういう夢かというと、同級生が皆、めでたく進級を決めて嬉々として帰省して誰もいなくなった学生寮で今度進級をしくじったら退学しなければならない私がさっぱり理解できない再試のことで途方に暮れている夢だ。毎度のことだがこの夢を見ていると私は弾かれたように目が覚める、心拍が普段の倍ぐらいに激しくなっていて体中汗びっしょりになっている。

 「夢だったか・・・・」と一人ごちて安堵の溜息をつくのが毎度のお約束だ、もう20年以上も経ったというのに未だにこのロクでもない悪夢は忘れた頃に安眠中の私に襲いかかってくるのである。つくづく思うがもっと真面目に勉強しておくべきだった。疑問の余地のない形で進級なり卒業を決めておくべきだった。留年というのは恐ろしいものだ。後々こんな風に禍根を残すとは当時思いもよらなかった。今更反省したってもう手遅れで、きっとこの先も死ぬまで悩まされ続けるのだろうが「それも人生」と割り切らざるを得ない私の屈折ぶりの一因がこんなところにもある。

 

 

 


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