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晴耕雨読風な一日 [書籍]

 昨日に引き続いて野良仕事を続ける。

 今年のゴールデンウィークは余り天候が良くない。お昼近くには小雨模様になってきたので野良は切り上げることにした。午後からは駆け込みのお仕事が入り渋々出動する。一時間前までスコップやら鎌やらを握っていた手ではんだごてやレンチを握っている。移動の際には自動車のステアリングを握っている。私の仕事とか作業というのはのべつまくなしに絶えず何かを”握って”いるもののようだ。

 せっかくの連休なのでお仕事はさっさと切り上げて多少は真面目に本でも読んでみることにした。何年ぶりかで読み返すのがこれ。

菊と刀―日本文化の型 (講談社学術文庫)

菊と刀―日本文化の型 (講談社学術文庫)

  • 作者: ルース ベネディクト
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/05
  • メディア: 文庫

 

 他人に向かって民族意識や思想信条などなどを開陳することを私は全く好まないが、好むと好まざるに関わらず、日本人であることに自覚的でありたい方ならばせめて本書くらいは読んでおられるのだろうと思いたい。他者の視点から語られることによって初めて見えてくる自分の姿というのもあるはずで。

 執筆された時期も時期なので変化してしまった部分もあるが変わらずにいる部分もある。それは日本の集団や社会が過去60年の間に何を保持し続け、何を放擲してしまったかについて考えることでもありそうだ。戦勝国が占領政策を実行する時点で薄っぺらな感情論を抜きにして既にここまで敵国の民族意識を冷徹に分析していたのかと思うと、改めて感心すると同時に幾分呆然とする。敗戦以後の60数年、私たちは誰か他者に与えられたある枠の中だけで考え、行動するように巧妙にプログラムされていたのだと改めて気付く。それがいいことなのか悪いことなのかは別問題としてだが。

 どうも今日の私は重厚な内容の「菊と刀」に没頭し続けることができず、併読していたのが読み飛ばし風のこれ。

悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷 (岩波新書 新赤版 (982))

悪役レスラーは笑う―「卑劣なジャップ」グレート東郷 (岩波新書 新赤版 (982))

  • 作者: 森 達也
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 新書

 

かの岩波書店もプロレスを扱うのかと思わず苦笑した。お仕事の帰りに立ち寄った古書店で105円で売っていたものを買ってきた。内容はさすがに105円だけあって2時間もあれば読了できる。作者はテーマであるグレート東郷の履歴を結局突き止められずに右往左往する。本人は当然面識がないので関係者を訪ね歩いて聞き取りを進めていく様子が書かれているが、本書ではグレート東郷という人の個人史は結局わからないままである。右往左往の過程や断片的な聞きかじりの様子と作者個人のこれも断片的な回想だけでできあがった本だ。「その人の名前を覚えていて色々調べたけど何もわかりませんでした」という括弧書きを思いっきり水増しして一冊の本にしたものがこれである。

 わかったこと、解明できたことを書物として著すものだとこれまで私は思いこみ続けてきた。わからなかったこと、区切りのつけられなかったことがこうして一冊の本になって販売されるというのもなんだか凄い話ではなかろうか。しつこいようだがさすがに105円で叩き売られるだけの内容、いや無内容さだ。結局私が読み取れたのは「個人の人格というのは国籍や民族的な出自だけでは定義しきれない」と「見る人によって対象の見え方は相違がある」の二つで、作者は余りにもまっとうなこの二つのセンテンスを書きたいがためにわざわざ新書版とは言え一冊の著作を執筆したわけだ。なんだか物凄い道草につき合わされたような読後感のある一冊。学生の頃、初歩的な講義を受けただけだが現代物理の一分野、量子力学とか不確定性原理というのは大掴みに考えると「わからなさ」を科学する営為であるように私は理解している。古典物理に凝り固まった私の頭にそれはかなりの衝撃を持って刺さり込んできたのだが、この本を読み飛ばして何かそれに類する感覚があった。これは私なりの、精一杯のこの本に対する皮肉である。定価で買って読んでいたらきっと「金返せ!」とわめき散らしたくなったはずだ。

 本の話はさておいて、私は春や秋の曇り空を眺めながら家で過ごしているとどういう訳かギター・トリオのレコードを引っ張り出す傾向があるようだ。

コモン・コウズ(紙ジャケット仕様)

コモン・コウズ(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: アッティラ・ゾラー,ロン・カーター,ジョー・チェンバース
  • 出版社/メーカー: Ward Records
  • 発売日: 2007/03/21
  • メディア: CD

 

地味目の佳作だが、時折復刻されるのは少々嬉しい。ギター・トリオの演奏というのは空間をびっしり音で埋め尽くすような傾向のものは非常に少なく、スカスカしたいい意味での物足りなさとかわびさびの世界みたいなところが読書の合間に聴くには相性が良さそうに日頃考えている。

「スカスカ」と私は書いたが先のプロレス本とは違って、無内容だという意味ではありません、念のため。 


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