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Copacabana/Barry Manirow(コパカバーナ/バリー・マニロウ) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 5月も終わりだというのに私の住む土地は一向に暖かくならない。
昨日は長年の友人と晩飯に出かけたがあんまり外が寒いのでセーターを着込んでいった。友人宅に迎えに行くとパーカー姿で外に出てきた。全くここは日本なのかよ、とか、今は一体何月なんだよ、とか言いたくなる。

 元々私には冬の間、雪景色を眺めながらボサノバを聞き流すという性癖があるのだが、今年は5月になっても寒いので何か中南米風の音楽が聴きたくなった。それで不意に思い出したのが30年位前にヒットした「コパカバーナ」だ。その頃の私はしかめつらしくジャズにのめり込んでいて享楽的なポップチューンから目を背けていたのだがそれでもやはり生理的に惹き付けられる曲というのはあるもので、青臭い小意地を張るヒネガキを手玉に取ったバリー・マニロウという人はやっぱりかなりの才人なのだ。当時も今も、この曲は度々私の頭の中で鳴る。
 こういうときのインターネットというのは大変便利なもので、 You Tubeあたりを探し回ると簡単に音源が見つかる。 余りにも容易く実体化するので拍子抜けするほどだ。


 今になって聴いても改めて名曲だなあと思う。何か体に染みついた感覚がかき立てられるような気がする。
ネット環境で接してみて当時は見えていなかったことも色々発見した。つくづく思うに、私のように語学力のない者には外国語の歌というのはやはり即座に正しく理解するのが困難だ。
 ネット上で歌詞を見つけ出し、辞書を引き引き出来もしない和訳に取りかかって簡単に挫折し、ネット上で気の利いたことが書かれてあるホームページを探し出す。こんなことではダメだなあ。
 今更私がここで歌詞の内容について書くまでもなく、ネット上では色々な角度から語られているのだが、私個人のために唄われるストーリーをおさらい的に残しておこうと思う。

 ハバナの北のほうに「コパカバーナ」というナイトクラブがあって、その店のショーガールにローラという娘がいた。同じ店で働くバーテンダーのトニーは彼氏である。ある日、店にダイヤを身にまとった(恐らく地元のギャング)リコという男が現れてローラにちょっかいを出して強引に迫り始める。憤激したトニーと店内で立ち回りになり喧嘩がエスカレートしてトニーはリコに射殺される。
 30年後、「コパカバーナ」は閉店してディスコ(今や死語だが当時はそれで通った)に模様替えしている。ローラはそこに30年前の衣装を着て現れ、飲んだくれている。若さを失い、恋人のトニーを失い、精神は異常を来して病んでいる。「コパカバーナ」で恋をしちゃあいけないよ。

 およそこんなストーリーが歌詞だったのだ。30年前の私はこんな物凄い物語が乗っかっているなどとは全く思っていなかった。ただただ享楽的で楽しそうだとか、女の子といちゃつくときのBGMに具合が良さそうだだとか、その程度の想像しか働いていなかった。2コーラス目の終わりに女性の甲高い叫び声が聞ける。歌詞の内容がわからなかった時点での私にはあれは単に乱痴気騒ぎの熱狂だとばかり思えていたのだが本当は目の前で恋人のトニーが射殺されたローラ嬢の悲鳴を表していたのであって、理解できない言葉で唄われた歌を聴いてあれこれイメージを膨らませてみてもとんだ見当違いであることの約30年だったことになる。何というか自分の無知な思いこみを恥ずかしく思う。

 私ごときがここでわざわざ書くまでもなく、ここで唄われるストーリーはその後段々発展し、宝塚での演目になったり、他のシンガーによってカバーされたりしている。You Tubeでもこの歌をBGMにした寸劇風のビデオクリップが幾つか投稿されていてあれこれ見ていると結構いい暇つぶしになる。たかだか3分程度のポップチューンが30年がかりでこうして色々な浸透の仕方をしている様子を見ると音楽の力みたいなものを感じる。今更だが、バリー・マニロウという人はただ者ではない。私は詳しく知らないが確信があって、これ一曲でずっと後々まで名前の残る人だ。
 それにしても、歌詞の大意を頭に入れた上で改めてこの曲を聴いていると、対比の鮮烈さに私は何か表しようのない気分に囚われる。半ば世捨て人のような、変な達観に浸ったつもりになっている今の私の中にも何か、激情的な物語の断片がしぶとく燻っていることを発見するのだ。リアルタイムでこの歌に接した頃、今の時点程度の見え方であったとしたら、その後の私自身は今とは少し違うところに立っていたのかもしれない。大袈裟な話ではなく、そういう仮定をしてみたくなるのである。そんな様子を想像してみたところでどうせそこに戻れるわけはないのだが。
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