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トーンアームのことを思案してみる [再生音楽の聴取環境など]

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 毎年のことだが、夏場はLTAにとって厳しい季節だ。昨年あたりも同じ時期に同じようなことをぼやいていたような気がする。何ら対策らしい対策もしないままずるずると時間をやり過ごしては同じようなぼやきを繰り返すのは私が向上心もお金もない人物であることを表している。

 オークションで安価な中古LPを買うようになってからは特に目立つが盤のコンディションが良くないことは多い。スクラッチノイズが多いのは百歩譲るとしても針飛びを起こす盤にあたるケースがある。色々なことについて言えそうだが中古品であるということは誰かが見切りを付けたものだからして、以前の持ち主がそのものにさほど愛着を持つこともなくぞんざいな扱いだったことは大いにあり得る。LPレコードであれば音溝に指紋がベタベタと付いているようなケースも何度かあった。

 常用トーンアームのSLA-3は動力源を持たないリニアトラッキングアームでダンパーの弾力だけを頼りに内周に向かって移動していく。従って荒れた盤面にはひどく敏感で簡単に針飛びを起こすので盤のクリーニングには結構神経質にならざるを得ない。埃や唾の飛沫、フケ(と思しき異物)などは洗えばきれいになって問題は解消するが、傷による針飛びは何とも手の打ちようがない。夏には移動用のレールが湿気を帯びやすいため滑走性が低下しがちでトレーシング性能が低下し、尚更針飛びを起こしやすいこともこれまで何度か書いたとおりでこれは何ともしようがない。元々湿度の低い米国西海岸で考案されたものであって多湿な東洋の某国での使用など最初から勘案されていないようだ。

 針飛びと同じく、この手のトーンアームは盤の反りにも滅法弱い。オフセットアームであれば9インチや10インチの実効長はあるので反った盤の上下変位量で発生する動作角などしれたものだが写真のLTAなどは実効長は1インチそこそこしかないので盤の反った箇所でてきめんに音が揺らぐ。酷いときにはカートリッジがバウンドして音が飛ぶ。これまた悔しいことにオークションで買い込む中古盤には荒れた盤面同様、反った盤も結構多い。

 オフセットアームであればトレースできてもリニアトラッキングではダメというケースは結構多い。ある時期から私はその辺を識別できるようにリニアトラッキングアームで針飛びを起こすLPレコードにはタグを貼るようになった。 LPレコードで明確なステレオイメージを得たいがために随分と七面倒臭い習慣を余儀なくされていると我ながら思う。反りに強いと言えばオフセットアームの中でもダイナミックバランスのほうに強みがある。深く考えたことはないがヤジロベエの錘をずらして針圧を印可するのとバネの力(Force)で下方向に押しつけるのでは過渡応答が異なってくるはずなのだ。だからなのだろうが業務用のターンテーブルにはダイナミックバランスのトーンアームが使われるケースは確かに多い。典型的なのがこれだろうか。

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スタイリングも音も私は自宅で使いたいとは思わなかったが、放送用ともなると安定したトレーシングが最優先事項という事情を考えれば当然の形式だろう。針飛びも音揺れもオンエアー中には御法度なわけで。

 自宅で使っているターンテーブルで唯一ダイナミックバランスのトーンアームを有しているのは毎度のこれである。

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自宅で何台か使っているうちでは確かに最も盤の反りに強い。しかし些末な話だが、私の知っているダイナミックバランスのトーンアームというのはどうも音質的にしっくりこないのである。大体どれも針圧印加用のバネの音が乗っかる。結局縁のなかったEMTも例外ではない、エンパイア698では歴然だ。この形式というのは何か微細なディティールが抜け落ちた大雑把な音になりがちなように思っている。聴く音楽の種類によってはそれでも良いのだろうが。 

 ダイナミックバランスのトーンアームのことをあれこれ思案しているうちに以前使っていたターンテーブルのことを思い出した。学生の頃、兄から譲り受けたマイクロ精機のDD-8だ。後にリジッドな重量級プラッターが売り物になるマイクロだが、この頃のスマートで使いやすい製品作りのほうに私は好感を持っている。

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 付属のトーンアームは単売されていたMA-505相当だったと思う。ダイナミックバランスにしては細かいディティールを良く拾い上げる優れものだった。バネの共振による付帯音は必要以上に力感を強調するような音質上の癖を生みやすいが本機はその辺が余り感じられない素直な音がした。

b-1.jpgプレイバック最中、針圧を任意に可変出来るという独自の機構も有り難かった。 当時3万円程度で販売されていたオーディオテクニカのトーンアームAT-1503は現在15万円だかの価格なのでもしもMA-505を復刻すれば20万円近い価格になってしまうのではないだろうか。DD-8は後に私がヤマハのGT-2000を買うための元手として知人に譲ってしまった。今となっては惜しいことをした、音といい使い勝手といい、メインシステムでもう一台のターンテーブルにはもってこいの存在だ。探せば中古で見つからなくもないのだろうがこんなことなら安易に知人に譲るのではなかったと後悔するが後の祭り。現在は知人宅の物置の片隅に押し込まれているようだ。いっそ幾ばくかのお金を持って取り返しに見参したい心境である。しつこく繰り返すが本当に惜しいことをした。

 

 


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コメント 10

だーだ

取り返すべきですよね、せっかくの名器使われてこそ華だと思います。
by だーだ (2008-06-16 18:30) 

shim47

だーだ様 コメント有り難うございます。
 これまで手放したGT-2000にもLP-12にも格別愛着らしいものはないのですがDD-8だけは心残りです。
 知人は大して熱心にレコードを聴くような人物でもなかったのでどんな扱われ方をされていたのかを想像すると少々気に病む私めなのでございます。ああ、落ち着きません。
取り返しましょうかね、やっぱり。
by shim47 (2008-06-18 02:26) 

fairbrook

はじめまして。
Oracle DelphiにEminent Technology ET-2.5を搭載しようと画策しておりまして、検索の途中で発見、拝読しております。実に参考になります。

追:
aloha! > だーださん
by fairbrook (2008-08-02 11:19) 

shim47

fairbrook様、コメント有り難うございます。
調整がややこしく、カートリッジの選定が限定される、夏場のパフォーマンスが苦しいなどいろいろ厄介なLTAですが、これでなくてはと思わせる場面もやはりあって私にとっては捨てがたいです。ETは以前私も思案しましたがポンプの扱いで考えがまとまらず断念した経緯があります。Stereophile誌ではSLA-3よりも高い評価を獲得していて最高点でした。上首尾を期待しております。
by shim47 (2008-08-02 12:34) 

fairbrook

shim47様
一点ご教示頂ければ幸いです。サウザーSLA-3のオラクル・デルフィーへの据付ですが、オラクルからSLA-3用のアームマウントキットが発売されていたのでしょうか。あるいはご自分でアダプタを作成されたのでしょうか。

エミネント用のオラクル純正のアームマウントキットがなくなっている可能性があり、善後策を今から考えています。
by fairbrook (2008-08-03 16:35) 

shim47

 fairbrook様
私の持ち物は20年ほど前に購入したもので、当時の輸入元はシイノ通商でした。SLA-3の取り付け希望者にはサウザーキットという名称で別売されており、内容は以下の通りです。
(1)SLA-3はターンテーブルのスピンドルに接触する部分があるためトーンアーム側のスピンドルロケーターとオラクル側のチャッキングスタビライザーのノブ部分を交換。
(2)SLA-3を取り付けると高さがあってダストカバーが閉じきらないため、アクリルベース部分のヒンジスペーサーが2個

 ET用の改造キットはなかったように覚えていますが、(1)についてはスピンドルとは非接触なので不要であり(2)についてはダストカバーを取り付けなければ問題はないと思います。(私の場合はご覧の通り、普段はダストカバーを取り付けていません)従ってfaibrook様のプランには支障がなさそうに思えます。

 ETの取り付けについてはピストン部分が左奥に向かって突き出ていくようなアームの挙動になるため、ダストカバーのヒンジをかさ上げしてもぶつかってしまうと思えますからもとよりマウントキットは不要であるように考えています。

 以上、お粗末ですが回答とさせていただきます。大した知識も経験もないのですがお役に立てることがあれば幸いです。ご不明点があればお手数ですがコメントをお願いいたします。 それでは。



by shim47 (2008-08-04 04:39) 

fairbrook

shim47様
>SLA-3の取り付け希望者にはサウザーキットという名称で別売されており
> ET用の改造キットはなかったように覚えていますが…

上記の有益な情報に感謝申し上げます。84年前後のステレオサウンド誌を
持ち合わせておりまして、シイノ通商の記事も確認しております。
(コンラッド・ジョンソンにスペクトラル、スネルにオベリスク…ですね。)

現在、Oracleに直接問い合わせております。僕のほかに、マウントキットに
興味をお持ちの先達がいらっしゃいまして、入手可能でしたらまとめて購入
するつもりです。
by fairbrook (2008-08-04 15:36) 

幸福の水先案内人

初めまして、小生30余年昔のオーディオ入門時の初号機がDD-8です。その後BL-91、BL-111、#5000を導入後、親戚の子供にプレゼントしました。トーレンスTDー226、124を愛用中です。現在マイクロ製品は1台もなく、親戚の子の使っていないようなので、買戻し?を策略しております。想い出のDD-8です。
by 幸福の水先案内人 (2010-03-18 14:37) 

幸福の水先案内人

3月22日に買い戻しました。505アームは煙草の脂がこびり付いていましたが、綿棒と無水アルコール、マジックリンetcを駆使しピカピカに磨き倒しました。背面の付き板が若干ひび割れて浮いておりましたが、簡単に補修し、仕上げに家具用ワックスで仕上げました。またインシュレーターのゴム部が多少経年劣化しておりましたが使用には問題なしです。約33年の使用ですが新品同様(音も機能も)になりました。メデタシメデタシです。
by 幸福の水先案内人 (2010-03-26 02:11) 

shim47

幸福の水先案内人様 コメント有り難うございます。
返事が遅れ、申し訳ありません。

コメントを拝読させていただきました。おめでとうございます。
最近、交流の多いある方とよく話すのですが、LPレコードの衰退によって良質なメーカーが随分なくなってしまいましたがマイクロはその代表格だったと思うのです。

 一時期私の使っていたDD-8は私の兄から譲り受けたものです。兄はDD-8からRX,RY-5000へと入れ替えを進めたので幸福の水先案内人様と似通った成り行きだった事になります。
 現在トーレンスをお使いとの事ですが、意外な事に私の周辺ではTD-125のユーザーしかいないのでご使用感などについて興味があります。
 私のブログはこんな調子ですがよろしくお願いいたします。近々わたしもDDドライブのターンテーブルを探そうと思っております。

by shim47 (2010-03-26 02:34) 

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