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LTAのカートリッジ選定で思い出したこと [再生音楽の聴取環境など]

 後日書き留めておきたいが、ぼつぼつシュアーとはお別れが近そうだ。思えばシュアーとの関わりは既に20年を超えた。この間、他のメーカーに鞍替えしようと思ったことは一度たりともなかった。

 一昨年あたりからシュアーの供給体制に対しては危惧があった。http://r-shim47.blog.so-net.ne.jp/2006-11-23

 危惧していながら無策のまま徒に時間を過ごしていたのは生まれ持った私の性分であってこれは一生直らない。何をやっても、いつもこのように問題点が顕在化してから泥縄的に焦り始める。

 大分長いこと使い続けてきたV15 TypeVxMRは既に交換針の供給が途絶えたようだ。いくら高音質だ、なんだと言ったところで所詮カートリッジは消耗品だ。スタイラスの摩耗した高級品など使用している意味がない。目下、シュアーのHi-Fi用カートリッジで最上位の機種はと言えばM-97xEということになる。http://www.needlz.jp/page009.html高価であればいいとは言わないが本当にこれで代替できるのだろうかという懸念はどうも払拭できない。

 こんな垂れ流しをグダグダと続けるのは理由がある。シュアーの製品がとんでもなくいい音がするからというわけではない。私の持ち物であるトーンアーム、動力源を持たないリニアトラッキングアームというのはカートリッジの選定が物凄く厳しいからだ。一般的なオフセットアームであればターンテーブルが回転してさえいれば針先には自ずと内周に向かって引き込まれる力が発生する。レコードの溝に対して針先は直角の接触をしていないので接線方向に対して90度、内向きの分力が微弱ながら発生することをインサイドフォースと呼ばれていることは諸兄も既にご存じと思う。もしも仮にターンテーブルが毎分1000回転位で回っていたらそこには遠心力が働いてトーンアームは外周に向かって弾き飛ばされるのだが100回転の1/3であるが故に内へ内へと引き込まれていくのである。

 経験上LTAというのは因果な存在で、レコード製造時のカッターヘッドと相似の軌跡を求めて導入するわけだがモーターで駆動する形式のLTAはどれも大なり小なり尺取り虫的な挙動でトレースされるのでより純粋性を求めると動力源を廃した形式に行き当たる。ヘッドシェルの付いたオフセットアームとは段違いにややこしい調整を済ませていざ音出しに取りかかり暗然とする。虎の子のカートリッジが針飛びを起こすのである。音質以前の問題だ。

4429102.jpg

敢えて何度も貼り付けるがこの形式はカートリッジ交換とその後の調整でいくら手慣れても2時間弱を要する。ソリッドベースのターンテーブルにヘッドシェル付きのオフセットアームならいくら手間取っても10分かそこらだろうが 、桁外れにややこしい。トーンアームの調整箇所だけでも実に12カ所に及び、針先の接触位置を確認するための細々した治具をあれこれあてがいながら神経質な調整をネチネチと繰り返す。そうした末の針飛びが起きるともう本当に意気消沈してしまうのですよ。

 導入時の私は随分ひどい目にあった。他に使っている方もいないので誰にも教えてもらいようがなく、試行錯誤はさして厚みがあるわけでもない財布が空になるまで続いた。オフセットアームならしなくてもいい苦労を嫌と言うほど味あわされた。インサイドフォースが発生せず、針先の駆動源もないということは、カンチレバーが内周に一旦引き込まれたあとに生じる根元のダンパーが生み出す弾力、反作用によっでカートリッジボディを引きずるような挙動によってトレーシングしていく、というのがこの形式の実体だ。

 苦労話を一つ一つ取り上げていくときりがないのだが、針飛びに悩まされているうちにわかったことが一つあった。ミドルマスのボディでカンチレバーのコンプライアンスが高いもの、つまり高音質、高感度のカートリッジはあらかたトレーシングに問題が出た。いくらセッティングで精度を詰めても針飛びが起きるというのは結局、カンチレバーが復元する際に発生するモーメントが小さすぎてカートリッジボディを内側に引き込む力が足りなさそうなのだ。つまり現行の多くのモデルもそうだが、カンチレバーのコンプライアンスと本体自重にはある関係性があって、カンチレバーの動作感度を上げ、かつ、一定のトレーシング性能を確保するためにはインサイドフォースによってカートリッジ全体が内側に引き込まれることを見込んでカンチレバーの動作をグニャグニャ気味にするような設計が高感度MCカートリッジの設計セオリーのように思えるのだ。反面、SPUのようなローコンプライアンスのカートリッジではどうかというと針飛びこそ起きないものの今度は反対にカンチレバーの振幅が十分に稼げない。結果として音質そのものが本来的なSPUの出音からするとヘンに神妙なタッチになってしまう。本来的であってもなくても聞いて良ければそれでいいのだろうがやはり納得できなかった。どうせGシェルからほじくり出して無理矢理取り付けたSPUなのだからこの際大改造してやろうとテンションワイヤーをいじっていいるうちにうっかりしてこれを切って完全におシャカにした。絵に描いたような愚行である。最初、構想していた虎の子のMC30をはじめとして、短期間のうちにない金をはたいてあれこれ試した「高音質、高感度」のカートリッジはどれもこれも針飛びが起きて使えないものばかりで、何より頭に来たのは当時サウザーの輸入元だったサエクのカートリッジ自体がどれもこれも使い物にならないことだった。(これは後に予想外の回答をサエクコマースから引き出す結果となったので後述)自社製のカートリッジで動作に問題が出るような製品を輸入するのはどう考えてもおかしいと思う。

 落胆したあげく、出音に大して面白みがないので長らく使っていなかったDL-103を単なる思いつきで取り付けてみるとトレーシングはそれまで試したうちでは最も良好だった。但し融通の利かない役人的な出音は相変わらずでもあった。

DENON DL-103 MC型カートリッジ

DENON DL-103 MC型カートリッジ

  • 出版社/メーカー: デノン
  • メディア: エレクトロニクス

 

しかしその安定感はさすがと言うべきか、業務用の必要条件は音質よりも堅実な動作であることをこのとき改めて確認した次第。 

この辺まで試行錯誤を繰り返した私はあるとんでもない相関関係に気付いた。LTA-3は取り付けるカートリッジが安物になればなるほど調整は楽になってトレーシングが安定していくのである。金欠ついでのヤケッパチで試してみたのが確かこれだった。

audio-technica カートリッジMC [AT-F3/2]

audio-technica カートリッジMC [AT-F3/2]

  • 出版社/メーカー: オーディオテクニカ
  • メディア: エレクトロニクス

 

発売当初は実に一万円そこそこの実売価格ではなかっただろうか。 調整もレールの手入れも実に楽になった。しかし音質は値段なりというかどうにも気にくわないもので以後私がオーディオテクニカというメーカーの製品に対して幾分冷めた視線を持つようになったのもこの製品に関係がある。

 

 

 ここで私は新たな一つの相関関係に気付いた。トレーシングが安定するような選定になればなるほど出音は退屈なものになっていってしまう・・・ 

 ターンテーブルとトーンアーム、加えて当時オラクルの輸入元だったシイノ通商が唯一推奨していたフォノケーブルであるPetersonとサウザー用の改造キットまでを含めると、雑誌で紹介されるような金満オーディオファイルならいざ知らず、貧乏人の私には決して安くはないセットだったのだ。それがたかだか針飛びを起こさないためだけに一体全体何でこんなに無茶苦茶な試行錯誤を強いられるのか。しかも安定動作の処方箋が当時八千円かそこらのカートリッジでその音はいかにも値段相応に安手な質感である。

 『こんな結末でいいのかよ!』と、腹立たしい気分でサエクの作ったSLA-3のカタログ写真を睨みつけているうちに私はあることに気付いた。付いているカートリッジがどうもシュアーに似ている。 どう見てもシュアーなのである。拙い英語力でロクに読解も出来ない当時の雑誌、Absolute Soundで製品レビューを拾い読みするとMMカートリッジと相性がいいらしいと書いてあった。

 今にして思えばつまらない思いこみだが、それまで私はカートリッジと言えば何が何でもMCで、MMなどというのは普及品専用だ、みたいな刷り込みがあった。当時の雑誌を読み返してみても大体トレーシングのことはほめるが音質については評価が辛く、どこか歯切れが悪い論評ばっかりだ。しかし本当にそうなのか?どうせここまで落ちたのだからと思い、試しにサエクにカタログでSLA-3に取り付けられていたカートリッジは何なのかと問い合わせてみると言葉を濁して答えてくれない。シュアーに見えるけど違うのかと聞くとやはり言葉を濁す。頭に来たのでもういいわいと電話を切り、数日してからV15 TypeV MRを買ってきて再び七面倒くさい取り付けと調整を済ませ、出てきた音に驚喜した。ここにいたって私はようやく音質とトレーシングの安定性が両立する条件を探り当てたように思えたのだった。

 その後MMカートリッジに回帰した私は面倒臭いながらも幾つか同様の製品を試してみて遊んだ。AKGやADCなど幾つかあったと思う。それぞれに聞き所はあった。中でも B&O MMC-1のキュートな音調は今でも鮮明に覚えている。しかし時代の推移と共にそれらの製品は次々と姿を消した。総合的にはやはりシュアーが最も安心できる製品で、最後まで手元に残る結果ともなったがそれもそろそろ終わりである。これから先はまた、試行錯誤による無駄遣いを覚悟しつつ次の候補探しに思案することにします。

 

 

 


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