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Misterioso/Thelonious Monk(ミステリオーソ/セロニアス・モンク) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 1958年のセロニアス・モンクというのはなかなかに微妙な時期にさしかかっており、リバーサイドに移籍してからは不遇時代に書き溜めたアブストラクトな自作曲をLPフォームに則った時間的制約の拡張による恩恵の元、スケールアップさせた形で再構成することで一躍時代の寵児となった。

 言ってみればそれまではスケルトン部分の提示しかできなかった自作曲に存分な肉付けをしてみせることでより色彩感を増した上にダイナミックな展開を聞かせるようになったわけだが、そのようにして一通り自作曲を再構築する営為が終わってみるとソニー・ロリンズもジョン・コルトレーンも既に押しも押されもしない一枚看板として自分のバンドからは卒業してしまい、次なるテナーマンの人選も思案中で確たる人材が定まらない。一種、手詰まり状態というかその音楽が尖鋭性を徐々に減じ始める時期にさしかかっていたのだと私は見ている。

 リバーサイド・レコードはしかしこの、異能の巨人にまだ十分な商品価値を認めており、レギュラーバンドの活動が一旦休止した状態にあっても色々なプレイヤーとの共演の機会をプロデュースすることで大変興味深い作品群をリリースし続けた。セロニアス・モンク自身もこの時点ではまだプレイヤーとしての緊張感を保ち続けており、期せずして一触即発的な局面をあちこちに覗かせていた。

 クラーク・テリーやジェリー・マリガンとの共演など語るべきレコーディングは多数あるが、そういった制作傾向の中にあって、当時売り出し中のジョニー・グリフィンとのコラボレーションは更に一つの大変興味深いセッションとなった。ライブ・レコーディングであることがここでは更に刺激的な瞬間を生成しているように思う。

Misterioso

Misterioso

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Universal Japan
  • 発売日: 1991/07/01
  • メディア: CD

 

  今の時点で振り返ってみると、セロニアス・モンクとの共演で疑いもなく創造的な協調を見せたのは順当すぎるがやはりソニー・ロリンズでありコルトレーンかというのが私なりのとらえ方だがミュージシャンとしての佇まいから見てジョニー・グリフィンという人はかなり異なるのではないだろうか。それは優劣の問題ではなくあくまでスタンスの違いでしかないのだが、シカゴで活動を続け、ジャンプバンドでの経歴を持つこのテナーマンはブルースに根ざした激情性をストレートに吐露する相当にアグレッシブなプレイヤーと私は受け止めている。その肉体派的資質は諧謔的でどこか屈折したストラクチャーを身上とするセロニアス・モンクの音楽世界とは殆ど接点がないに等しい。直線的に熱狂を高めていく演奏スタイルはしばしばホンカー風な扇情性を覗かせ、良くも悪くも論理性をはねつける。

 そんなわけでここでの演奏はセロニアス・モンクが客演するジョニー・グリフィン・トリオといった様相をしばしば呈する。 曲のテーマは単にブロー大会のためのとっかかりに過ぎず、ジョニー・グリフィンは遠慮も会釈もなく、強引とさえ思えるほどに自分流の展開にバンドを引き込んでいく。コーラスを重ねるごとにモンクのバッキングは手数が減り、そのうち何コーラスもピアノの無音状態が続き、ジョニー・グリフィンはそこで更にヒートアップしていく。

 意図してそのような展開を予め打ち合わせておいたのかどうかは不明だが、自身のオリジナルがみるみるうちに換骨奪胎されていく過程を目の当たりにする作曲者でもあり共演者でもあるプレイヤーの心の動きという切り口から色々な想像を働かせるに、私には何度聴いてもスリリングな時間が経過していく。沈黙することが音楽のスリルを増していくのだとすればそのプレイヤーの発する音にはどういう意味があるのか。勿論それはリスナーの勝手な想像でしかないのだろうがモンクの音楽はいつも実に色々なことを私に考えさせる。一曲だけ演じられるピアノ・ソロ、Just a Gigoloは皮肉にも収録曲中、唯一モンクのオリジナルではない。だが単にテーマをそのまま2コーラス演じるだけのこの小曲で聴かれる間合いとキータッチは疑問の余地なくモンクの音楽世界を如実に反映している。 演奏内容もさることながら、この編集に私はあらためて換骨奪胎という言葉が折り重なる様子をこのレコードから聞き取ってあれやこれやを空想する。本当にセロニアス・モンクの音楽は色々なことを想像させてくれるものだ。

  ついでに書いておくとキリコの絵があしらわれたこのジャケットデザインはまるでモンクのが楽想をそのまま絵に置き換えたようで私は大変気に入っている。LPで勝っておいて良かったと思えるソースは幾つかあるが本作もその中の一つだ。

 ジョニー・グリフィンの大暴れぶりはこちらのほうでより際だつが、いずれ取り上げてみたい。

セロニアス・イン・アクション+3

セロニアス・イン・アクション+3

  • アーティスト: セロニアス・モンク,ジョニー・グリフィン,アーメド・アブダル・マリク,ロイ・ヘインズ
  • 出版社/メーカー: UNIVERSAL CLASSICS(P)(M)
  • 発売日: 2008/05/21
  • メディア: CD

 


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