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The Trance/Booker Ervin(ザ・トランス/ブッカー・アーヴィン) [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 前回、ブッカー・アーヴィンのことをちょっと書いた後、しばらく意識に引っかかり続けているレコードがあったことを思い出して聴き直してみた。

ザ・トランス+2

ザ・トランス+2

  • アーティスト: ブッカー・アーヴィン,ジャッキー・バイアード,レジー・ワークマン,アラン・ドウソン
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2006/03/24
  • メディア: CD







 
 梅図かずおの怪奇漫画から一コマ拝借してきたようなジャケットデザインだ。 
私にはこういう虚仮威しめいた、安っぽいハッタリの効いた意匠に転がる傾向が確かにあって、良くも悪くも何かを予感してしまう。
  
 あらためてブッカー・アーヴィンというプレイヤーの立ち位置を考えてみると、何かしら気になる点がなくもない。 
片方に無調ででフリーリズムのサックスプレイヤー、例えばアルバート・アイラーのような人を置き、対極に4ビートのハードバッパーを位置づけてみる。 普段、私の中の図式ではこの中間あたりに位置するのは例を挙げるとウェイン・ショーターだったりジョー・ヘンダーソンだったりする。無理矢理カテゴライズするならモードの申し子のようなプレイヤー達とでもいうことになるのだろうか。 
 それで件のブッカー・アーヴィンはというとそれら申し子達ほどには感覚的には新しくなく、だからといって円満なハードバッパーの範疇からも幾分はみ出しているような、あるプレイスタイルのぶれというか感覚的な新しさでいうと中間のそのまた中間地点、ある意味中途半端に新しく聴こえなくもないややこしいところに立脚しているように思える。ある種の特異点と捉えても良さそうだ。 

 そしてこの特異さ加減は、ブッカー・アーヴィンが籍を置いていたチャールズ・ミンガスの立ち居値ともどこかで共通しているように思えている。細部のイディオムは格別目新しくはないのだが全体を鳥瞰すると何かしら定型の様式から逸脱したテイストを漂わせている印象を受ける。ついでに言えば何やら強面風の、少々ミステリアスにして無愛想な体臭もそっくり親分から受け継いだような風に思えている。 

 本作は特段代表作とも言えない出来だと私は思っているのだが、この目玉を大書した何やら面妖なジャケットデザインはブッカー・アーヴィンというプレイヤーのありようを良く現している。 
 本作のタイトルはThe Tranceという。「恍惚」という訳語を当てるのが妥当なのかどうか自信はないが、本作一曲目、LPレコード片面いっぱいを占めるタイトルチューンをこれまで私は最後までまともに聴き通せたためしがない。 
 お恥ずかしい話だが何故か必ず聴いている途中で居眠りしてしまう。だから何度聴いても全体の構成が頭に残らない。夢幻のごとき音楽が展開されてそのあまりの美しさに恍惚となって快いうたた寝に誘われるということでは全然ない。有り体に言って本作は全編、頭の先からしっぽまでおよそ構築性に欠ける垂れ流しの凡演であって全ての曲が無意味に長い。

  冒頭、イントロで奏でられるジャッキー・バイアードのフリーフォーム風のフレーズはいかにも何事かが起こりそうな緊迫感をたたえており、毎度『今度は眠らずに最後まで聴き通すぞ!』と思わせるのだがテナーのソロが始まり、中盤以降の中だるみ垂れ流し風の展開にさしかかるとこれまた毎度私のテンションは弛緩していく。とぎれとぎれになる意識にどうにかこうにか喝を入れて頑張るのだがベースソロの途中で力尽きて抗い難い睡眠の魔力に取り込まれていく醜態がお約束みたいになっている。

  演奏時間が長い例などいくらでもあるし、寝不足等々よほどくたびれていない限りLP片面を緊張感を維持しながら聴き通せる程度の体力はまだあると思い込んでいるが本作はどうにもいけない。毎度内周の無音溝を針がトレースする時のボッツンボッツンいう音で目を覚まし、何度も繰り返しの失態に舌打ちをする。20分にも及ぶ、しかも全編垂れ流しみたいな音楽をもう一度最初から今度は真面目に聴き直そうという気にもなれず、レコード盤をひっくり返す。 
 そして裏面はというと、タイトルチューンの大体半分ほどの演奏時間ではあってもこれまた全編垂れ流しの、何だか締まりのない凡演でまたしても私は居眠りモードに引きずり込まれていくのが通例となっている。 

 要するに本作は、その見てくれといい音楽そのものといい、全く羊頭狗肉としか言いようのない困り者で、今までのところ私にとっては睡眠導入音楽としてしか機能していない。何だか意味ありげな装丁といい、申し分なく相性の良さそうな楽想の持ち主であるはずの共演者といい、音を聞かなければ何かしらワクワクするような期待感はもたらしてくれるのだが・・・・ 

 意地の悪い見方かもしれないが、ブッカー・アーヴィンというプレイヤーはある大きな制約を外側から与えられることで本領を発揮するタイプのミュージシャンなのではないかとある時期からの私は考えている。それは例えば共演者の中に同じリード楽器奏者がいるとか、与えられるソロパートが限られているとかいった状況にあってサマになってくるような佇まいだ。 これから演奏する音楽全体の青写真から構想する、という場面から一切合切を委ねられたとき何が生み出されてきたか、というよりも何を生み出さずに終わってしまったかが本作には記録されているともいえそうだ。  蛇足だが、本作とは真逆に、一見無秩序でありそうに聴こえながらよくよく聴いているとかなり厳密な事前のストラクチャーが見えてくる音楽として思い当たるのがこれ。 
ユニット・ストラクチャーズ

ユニット・ストラクチャーズ

  • アーティスト: セシル・テイラー,ヘンリー・グライムス,アラン・シルバ,エディ・ゲイル・スティーブンJr.,ケン・マッキンタイヤ,ジミー・レオンズ,アンドリュー・シリル
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1998/02/25
  • メディア: CD
 ある意味数学的な、と言いたいほどロジカルな音楽だったことに気づいてからもうだいぶ経つ。

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