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Go/Paul Chambers (ゴー/ポール・チェンバース) その1 [音楽のこと(レビュー紛いの文章)]

 格段テーマを決めて色々掘り下げて聴く、という事をせずに何となく思いついたものをあれこれ引っぱり出しているうちにある時気づいたのだが、ウィントン・ケリーのピアノには何だか生理的な好ましさを感じる。

 ウィントン・ケリーといえばそのキャリアを通じてドラムにジミー・コブ、ベースにポール・チェンバースで構成されるリズムセクションがお約束のようなもので、実際このメンツをバックしにしたプレイヤーのレコーディングは随分多い。

 更に言えばこの3人のうち、ポール・チェンバースの録音歴となると全くもって膨大で、私はまだこの人の詳細なディスコグラフィーというものを見た事はない。1950年代中期から60年代半ばまでの、実質10年そこそこの演奏歴だが殆ど便利屋よろしく呆れるほど色んなセッションにつきあっている。 e0122780_21481270.jpg  ある時、田野城寿男さんのアフター・アワーズでちらっと聞いたのだがベースというのはなかなか含蓄深い楽器で、聴衆から見ると裏方そのものでありながら実際に共演しているプレイヤーは全員その挙動を伺いながら次に自分が何をするのかを決めるくらいの存在なのだそうだ。

 ベースマンの系譜にあってポール・チェンバースはスーパーBクラスみたいな位置づけで、バンド全体を自分のカラーに染め上げるように強固な大枠の楽想を持つミュージシャンではないが、所謂ハード・バッパーとしてどんな編成にあっても収まりの良い、円満なプレイヤーだった。

 きっとこういう資質が共演者として好ましかったのだろうな、と思わせるのはバッキングでもソロでも見せ場を作りながらも必要以上に強烈な自己主張はしないそのバランス感覚だ。だからなのだろうが同世代のベースマンの中では比較的リーダー作は多い方だと思う。

 プレイヤーとしての側面を思い切りクローズアップした企画ではないが肩の凝らないブロ−イング・セッションとして私が結構よく聴くのがVee Jayに吹き込んだ本作だ。

ゴー+

ゴー+

  • アーティスト: ポール・チェンバース,ウィントン・ケリー,フレディ・ハバード,キャノンボール・アダレイ,ジミー・コブ,フィリー・ジョー・ジョーンズ
  • 出版社/メーカー: BMGビクター
  • 発売日: 1997/06/21
  • メディア: CD

現在は廃盤のようでAmazon.comでは中古盤しか手に入らないようだ。Vee Jayというマイナーレーベルは例えばブルーノートやプレスティッジよりも更にマイナーなのでいつでも手に入るというものではないらしいのがちょっと残念。

Go.jpg

ジャケットデザインはマイルスのWalkin'に似ている。

 

ウォーキン

ウォーキン

  • アーティスト: マイルス・デイビス,J.J.ジョンソン,デイヴ・シルドクラウト,ラッキー・トンプソン,ホレス・シルヴァー,パーシー・ヒース,ケニー・クラーク
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2005/09/22
  • メディア: CD

 但しここでのベーシストはパーシー・ヒースだ。このあとレギュラーバンドを結成するにあたってポール・チェンバースに白羽の矢が立つ事、枯れのミュージシャンとしての最盛期がそのままマイルスのバンドでの在団期間だった事を思うと何かを連想させるジャケットデザインに思えるのは穿ち過ぎだろうか。

 音楽そのものについては生きのいい若手が一丁上がり的に仕上げたブロ−イングセッションで、あれこれ理屈をこねる類いの音楽ではない(こねたいけど)。録音は1959年の2月2、3日の二日間に分かれている。ドラマーは二日のセッションがフィリー・ジョー・ジョーンズ、三日のセッションはジミー・コブでマイルス繋がり。所謂ボス抜きセッションだが和気藹々という感じだ。 二日のセッションはスタジオライブのようでソロの合間に拍手が入るが気のせいか私にはこれがオーバーダブさせたもののように聴こえる。

 ポール・チェンバースのプレイはオフマイク気味に録音されているせいか本作は尚更リーダー作としての印象は薄いが替わりにと言っても何だが全編ウィントン・ケリーの全キャリア中でも最上級と思えるくらい張り切ったプレイが聴ける。私がとりわけ気に入っているのは三曲目Julie Annのイントロで、この日のウィントン・ケリーには何かよっぽど嬉しい事があったのではないかとさえ思えるくらいだ。正直なところ、この出だしを聴きたくて私は本作をしょっちゅう棚から引っぱり出している。

 ドラマー二人を聴き比べるのは本作の楽しみ方の一側面だが意外にもここではジミー・コブのプレイの方に活気を感じる。一曲目のリムショットなどは本来だったらフィリーの見せ場となるプレイのはずで、もしも予備知識なしにブラインドでドラマーの当てっこをしたらあべこべになりそうなくらいだ。

 当然ながらくどくど書いても文字は所詮文字であって音楽そのものではない。 何せ、楽しいセッションである。(続く)


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