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来訪者 [再生音楽の聴取環境など]

  ここ半年ばかりの間にお仕事関係で面識の出来たHさんが実は古参のオーディオファイルであることを何かのときに知った。以来、お会いしているときには本筋のお仕事の話だけでは終わらないことが多い。

  Hさんは拙宅のターンテーブルにご興味を示された。LTAを使われたことはまだないそうだ。

 

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 これまで何度も書いてきたように、LTAにはカッターヘッドと同じ軌跡を描いてトレースするという原理上のアドバンテージはあるもののそれと引き換えに山ほど多くのハンディを抱え込むことにもなる。

 ついたてスピーカーには全帯域フラットレスポンス、振動版の前後対象動作という長所はあるがこれまた多くの欠点が原理的に存在する。 取りまとめると、私の自宅のメインシステムはDレンジと音量を欲張らないことを前提としたやせ我慢の産物である。このテキストを書いている今にして思えばHさんは数度ご来訪して冷徹に拙宅の泣き所を探り当てた模様だった。

 しばらく前のある日、HさんからLPレコード持参の上でお邪魔したい旨のご連絡があった時、ついたてスピーカーを手に入れて以来かれこれ20年強の時間がしょうもない独りよがりだったことを暴き立てられることになりそうな予感がした。やがて玄関チャイムが鳴って現れたHさんのご持参されたLPレコードのうちの一枚がこれである。

ベルリオーズ:幻想交響曲

ベルリオーズ:幻想交響曲

  • アーティスト: マゼール(ロリン),ベルリオーズ,クリーヴランド管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2004/05/26
  • メディア: CD

 

 テラークというレーベル名を目にしたとたん、予感が確信に変わった。さすがにHさんは筋金入りで甘くはない。

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テラークと言えばかの「1812年」でリミッターをかけずに本物の大砲の音を録音したプレスで名を馳せた。当時私の周辺ではあの盤をびりつかせずにまともにトレース出来たのはデンオンのDP-100だけだったように覚えている。

 こちらは同じくリミッターをかけずに(だったかな?)鐘の音がカッティングされている。録音現場から近くにある協会の鐘楼にマイクをセッティングして延々とケーブルを伸ばしてミキサーに取り込んだのだそうだ。音楽そのものの出来は当然としてプレイバックに手こずるのはこちらも「1812年』といい勝負、ということは私の持ち物であるLTAでは目を覆いたくなるような場面は容易に予想されており、実際には予想以上の無惨さでもって再生された。いやもう至る所針飛びとクリッピングの連続で持ち主としてはがっかりである。

 あらは他にも色々、嫌になるほど沢山だ。ティンパニの連打ではもろに定在波が乗ってローエンドがモヤモヤと曇る。フォルテではスピーカーのダイヤフラムがグリッドにぶつかってパンパンという付帯音が出る。挙げ句の果てには針飛びだ。みっともない事この上ない。少し前にHさんとはLTAとオフセットアームについて少し話した事があった。確かその時HさんはLTAはカンチレバー側から見たときのムービングマスが小さい点と支点が明確でない点を指摘されてDレンジの大きなレコードでは必ずなにがしかの問題が出るだろう、とご指摘されたように思う。

 それは私がこれまで薄々自覚していた事でもあったのでその時には痛いところをついてくるなあ、と、 思ったものだ。確かにこれまで意図してそうしていたわけではないが私の聴く音楽というのはそういう問題点の露見しなさそうなものばかりだった。

 何せ、音はビリつきまくり、針飛びはギャンギャン起きるぶざまなプレイバックに私は意気消沈したのだ。この状況、この心境はどういう風に例えれば良いのだろうか。とにかく大変かっこ悪い気分になったのは間違いない。腕組みをして立っているHさんをちらっと見るとポーカーフェイスであるところが尚更気まずい。 私は少なからずみっともない気分になっている旨を告げた。Hさんはわりかし平静で、今日の目的は問題点の検証であると仰る。私のターンテーブルではどうにもならないソースである事は歴然で、アームのセッティングを詰める気にもなれないというとそもそもまともにトレース出来たプレイヤー自体が幾つもないのだという。確かそのうちの一つがexclusive P3だったと仰っておられたように覚えている。

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 私の持ち物とは対極にある風貌の、重厚長大、威風堂々のターンテーブルだ。思い出してみると私がオラクル+SAL-3+(ちょっと改造) を買い込んだ頃、P3はまだ現役で、しかも金額としてはいい勝負だったはずなのだ。だが当時、私の頭の中に候補としてのP3はなかった。大体私は根がへそ曲がりなのでこういういかにも王道風の佇まいであるターンテーブルを遠ざけたい気持ちがあったのかもしれない。考えてみれば私の持ち物であるコンポーネントは全部そうだ。だからある限定された条件の範囲内でだけはそこそこ上首尾でそこから少しだけ外れると途端にダメダメなプレイバックとなる。

 ここで一つの教訓と示唆をHさんから与えられたはずなのに私はこれから改善に努めようと言う気持ちが実はない。何かやろうにも今は先立つものがないのだ、だとか1セットで全てを満たしてくれる再生システムなどはないのだからこれはこれでいいのだ、だとかいったいいわけをこねくり回しながらその後はいつもの聴取環境へと戻っていく事になる。美学の域に達しているとはとても言えないがやせ我慢もまた一つの佇まいではあると無理無理自分に言い聞かせる。


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